ハリボテロミオの夏の夢
結局、今日は三匹とも大人しく部活を見学して終わった。
家に帰ってからも、今回の台本を見せて欲しがったりする程度で、昨日とは打って変わって静かだ。
特にイデは考えていることがあるみたいで、あまり会話に入ってこないでベッドに座ったまま、一人でぶつぶつ何かを呟いていた。
そのことについてアルに聞いてみたけど、
「何か思いついたとかで、私たちも知らないんです」
ということなので、よくわからない。
イデがいないことで何か困ったことがあるわけではないので、僕はイデをそのままにして、明日に備えて寝ることにした。
……この判断が間違いだったと知るのは、翌朝だ。
(ん……、なん……だ?)
勝手に体が動いているような、変な感覚で僕は目を覚ました。
「おう、起きたか」
(え……?)
そう声をかけられた先にあったのは、鏡だ。
そこに写っていたのは赤いTシャツの上から、白いYシャツを着た男だ。その人物の首元には、ゆるっと学校指定のネクタイがまかれている。勝手に動く手は、ワックスを広げて髪を丁寧にセットしていた。
チャラっと、腕につけたシルバーのゴツいブレスレットが音を立てる。
前髪が上がっていて、やたら視界が広い。
(こ、これ……僕っ!?)
見たこともない自分の姿に、鏡に手をつこうとする。
でも、僕の体は全く動かなかった。
な、なんだこれ?!?!
「いい感じじゃね?ってかテメェ、元々の素材めちゃくちゃいいんじゃねぇか。背も結構あるくせに猫背なせいで低く見えるし、顔だって前髪で目ェ隠して、さらにメガネなんてだっさい格好して勿体ねぇ」
ってかこれ伊達だろ?
と、僕の体は洗面所に置いてあったメガネを手に取る。
自分の体なのに、自分の思ったように体を動かすことができない。
「イデ!あなたどこに行ったかと思えば!!!」
そう言ったのはアルだ。
どうやらイデを探していたらしい。
って、
(イデ?!?!?!)
「そ、ちょっとお前の体借りてるぜ」
そう言って、鏡の中の人物がニヤリと笑った。
確かに、改めて鏡の中の自分の姿はイデのそれだ。
って、そうじゃない!
(ちょっと借りるって……そんな消しゴムみたいに人の体を!僕の体返してよ!ってか、どうなってんのこれ?!?!?!)
「僕たちね、アメちゃんと契約した人間とキスすると、体を借りることができるんだよ〜」
アルに続いて、僕たちを見つけたレテがしれっと説明する。
(……キスで、体を……借りる?)
「うん。演技の時の体の動かし方とか、僕たちが直接体の中に入って教えたりするんだぁ。だからレテパシー?みたいな感じで会話もできるよ」
なるほど。
それは確かに、演技指導の時にはわかりやすいかもしれない。
って、違う!問題はそこじゃない!!!
(イデ!僕にキスしたの!?)
「だからこうやって体借りてんだろ?」
ここにちゅっとな。
と、イデは僕の頬をトントンする。
あ……唇じゃなかったんだ……。
なら、まぁ……。いい……。
いや、よくない!
よくないって、僕!!!
ファーストキスじゃなかっただけマシだとか思っちゃいけない!
よくわかんないけど、なんかのカウントは着実に減った!!
色々衝撃的すぎて、今起こっていることの処理が追いつかない。
(だからって、なんでイデは僕の体乗っ取ってるの!?)
「乗っ取ってるんじゃなくて借りてんの。安心しろって。やることやったら返してやるから」
(やることって……)
一体イデは、僕の体を使って何をする気なんだ?
それにこれ、どうやったら元に戻れるの……?
「慣れたら私たちが入っていても、玲央が主導権を握れる様になりますよ。ですが、慣れるまでは私たちが温かいものを飲んだり食べたりするか、または私たちがびっくりする様なことが起こらないと元に戻れません」
(ちょっと待って、それって今の状態だと僕から元に戻す方法はないってこと?!)
「そういうことになるね〜」
そ、そういうことって……。
何もできないなんて、最悪じゃないか。
「ま、諦めて見とけって。俺様がテメェをまた役者になりたいって思わせてやるからよ!」
鏡を前にして、イデは自信満々だ。
一体、どうすればここまで自信を持つことができるんだろう。
……羨ましい。
って、ちょっと待って。
(え……もしかしてこれで学校行くつもり?)
「もちろん」
イデは即答だった。
(もちろん。じゃないよ!困る困る!こんな格好で学校に行ったら、みんなに何て言われるか!!!)
「玲央さんの原型がほとんどないので、よっぽどのことがない限り、玲央さんだってバレることはないと思いますよ?」
そういう問題じゃない!
万が一、誰かにバレたりしたら今後どんな顔で学校に通えばいいのかわからない。
(お願いだから、いつもの格好にもどしてよ!)
「はぁ!?誰がンなダッセェ格好できるかっての!」
(だとしても戻して!!!)
「あーもう、うるせぇなァ!!!さっさと行くぞ!!!!」
(ちょっと!!!!)
僕の静止も聞かないで、イデは家を出てしまった。