ハリボテロミオの夏の夢
(なんか……すごい視線を感じる……)
いつもの通学路。
普段はモブとして歩いているので、誰も僕を認識していない。
なのに今日は、行き交う人がみんなちらちらと僕のことを見ている。
なんなら、ヒソヒソと話し声も聞こえてくる。
お願いだから、僕を見ないで欲しい……。
「はっ、当然だろ?俺様を大衆が放っておくわけがねぇっつーの」
相変わらず、イデは自信満々だ。
本当に、一体どこからそんな自信が出てくるんだよ。
中身はイデだけど、外見は僕なんだぞ?
「それに……俺に言わせりゃ、テメェは自信がなさすぎだ」
(ッ……)
図星を言い当てられて、言い返すことができない。
確かに、イデのいう通りだ。
僕には自信がない。
自信がないというより、自分に希望が持てないという方が正しいけど。
「だぁから、俺様がサクッとテメェに自信をつけてやるよ。自信がつきゃ、また人前に立ってみてぇって思うだろ?」
「……それとこれとは、ちょっと違う気がしますけど……」
そういうのは右肩に乗るアルだ。
確かにアルのいう通り、自信がつけばいいなんて、そんな簡単な話じゃない。
だけど、
「違わねぇだろ?根性叩き直せばなんとかなるっつーの」
それでもイデは、自分の意見を曲げない。
僕に自信がつけば、また役者になりたいと思うに違いないと信じているみたいだ。
そんな簡単にまた役者になりたいって思えるんだったら、正直悩んでないんだけど……。
「ところで、イデは玲央に自信をつけるために何をするつもりなのぉ?」
左肩に乗るレテがイデに尋ねる。
確かに。イデは僕に自信をつけさせるために何をする気なんだろう?
「んなもん簡単だ。あのジュリエット役の女に告って、俺の女にする」
(……は?)
こくる?
告る?
(はぁああああああああああ!?!?!?!?何言ってんの!?この猫!!!こ、こともあろうに、しゅ……朱里さんに、こくる?こくるって何?なんかどこかの方言か何か???)
パニックになって、色々なんかおかしい。
いや、おかしくならない方が無理!!!
朱里さんに告白するとか、正気の沙汰じゃない!!!
マジで何考えてんだこの猫は!!!!!
「猫じゃねぇ!!ったく、告るっつったら告白しかねぇだろうが。うじうじうじうじ、虫が湧くっての。サクッと告白して、あの女がお前のもんになれば自信つくだろ?」
(ならないよ!ってかなんだって朱里さんに……!)
「だってお前、あの女のことが好きだろ?」
(や……ちがっ……!いや、違わない……違わない、けど……ッ!!!)
そんな面と向かって、言えるわけがない。
僕なんかが、朱里さんを好きだなんて。
(僕と彼女じゃ格が違いすぎるって!!!)
「はっ!俺様が告白するのに、OKしない女がいるとでも?」
それどこのアニメ映画だよ!
自信があるにも程があるだろ!!!
(本当、お願いだからやめてよ!僕と彼女じゃ釣り合わないって!!!)
「釣り合う釣り合わないってなんだよ?んなこと、誰が決めたんだっての。それに……ついたぜ?」
(え……?)
イデのいう通り、そうこうしているうちに学校についてしまった。
自分の体なのに、自分ではどうすることもできなくて、もどかしくてたまらない。
「あの女がいるのは……稽古場だな」
スタスタと、イデは迷うことなく稽古場へ向かう。
その間にも、他の部活で学校に来ていた生徒がみんな僕の方を見ていた。
「え、誰あのイケメン!?」あんなイケメン、うちの学校にいた?」
「めっちゃ背高い!モデル?」
「転校生?」
「おい、なんで転校生が夏休み中に来るんだよ」
そんな声が、あちこちから聞こえる。
本当に、本当にやめてほしい。
正直、今すぐにでも帰りたい。
(ね、ねぇ……本当に僕だってバレない?)
「多分大丈夫だよ〜」
(多分じゃ困るよぉ……!)
もう学校に行けなくなる……。
今年で卒業だっていうのに……。
百歩譲って……いや、譲りたくない。
譲りたくはないけど、それでも派手で目立つならまだ……まだ許せる。
許せないのは、
「朱里、いるかァ」
イデが勝手に朱里さんに告白しようとしていることだよ!!!
稽古場に着くや否や、イデは朱里さんを呼び出す。
いつの間にか、僕の体を乗っ取ったイデについてきた生徒で、後ろには人だかりができていた。
めちゃくちゃ目立ってる……。
「朱里先輩ですか?先輩ならロッカールームにいますけど……」
「あぁ……悪ィ、呼んでもらえるか?」
そう言って、イデは近くにいた後輩の女の子に優しく微笑みかける。
すると女の子は「は、はい……!!」と頬を赤らめながら、急いで女子のロッカールームへ走って行った。
周りがより一層ざわつく。
本当……どうするんだよ、これ……。
マジで泣きそうだ。
「朱里先輩!イケメンが先輩のこと呼んでます!!!」
後輩の女の子の元気な声が、ここまで聞こえた。
「イケメン?」
誰それ?と、後輩の女の子に呼ばれて、朱里さんがロッカールームから出てくる。
髪をポニーテールに束ねていて、相変わらず可愛い。
いや違う。今はそんなことを考えている場合じゃない。
「よお」
「えっと……どなたですか?」
戸惑いながら、朱里さんが答える。
どうやら、朱里さんはこれが僕だって気づいていないみたいだ。
きょとんと、イデを見つめるくりんとした大きな目も、やっぱり可愛い。
というか、僕こんなに近くで朱里さん顔を見たことないんだけど……!
グッジョブなのか、そうじゃないのか、なんかもうよくわからなくなってきた。
「誰でもいいだろ?そんなことより……」
そう言って、イデは右手でそっと朱里さんの頭を撫でて、ポニーテールを手に取る。
そして、イデはその柔らかい髪に、そっとキスをした。
ふわっと、優しいシャンプーのいい香りがする。
「俺と付き合え、朱里」
「お断りします」