ハリボテロミオの夏の夢

第五幕


大会1日目は、他校の演目を観覧して終わった。
いつもだったら楽しく観られるのに、この日は何も頭に入って来なかった。

ほとんどの部員が学校に戻って自主練をする中、僕は1日目が終わるとすぐに自宅に帰って寝た。
三匹も、僕の気持ちを察してなのか、とても静かで、あまり僕と話をしなかった。

そして、大会2日目……僕たちの公演の日だ。

重い足取りで楽屋に入ると、僕は震える手でロミオの衣装に腕を通す。
幸い、蘭くんと背格好が一緒だったので、手直しをほとんどしなくてすんだ。

そして鏡台の前に座ると、僕はメガネを外して、髪の毛をセットする。
と言っても、軽く整える程度だ。
すると、


「……玲央、お前大丈夫か?」

「うん……なんとか」


僕を心配して、汐恩が声をかけてくれた。
当然だ。今まで裏方ばっかりだった僕が、いきなり主役の代役をすることになったんだから。


「まさかお前が代役なんてな……」

「そう、だね……」


僕は鏡越しに汐恩を見る。
汐恩は、ただまっすぐ僕を見ていた。


「……でも、あの演技なら大丈夫だ!自信持てよ!!」


そう言って、汐恩は僕の背中を叩く。


「うん……ありがとう」


あれは、僕が演じたわけじゃないけど……とは言わなかった。
言えるわけがなかった。

これから、舞台に立つのは僕じゃない。
アルだ。

だから、緊張もしていない。
むしろ、変に落ち着いていた。


「実はさ、俺……スッゲー嬉しいんだ」

「嬉しい?」


なんで?
と、汐恩を見れば、汐恩は僕の方を見てにかっと笑った。


「お前さ、昔色々あっただろ?だからまた舞台に立ってくれて、嬉しいんだよ……」

「汐恩……」


汐恩は、僕の過去を知っている。
知っていて、ずっと変わらずに僕と接してくれた、大切な友人だ。

だからきっと、汐恩なりに思うことも色々あったんだと思う。
それをずっと僕に言わないで、友人として接してくれたんだ。

なのに、


「俺……実はさ、また舞台に立つお前を観たかったんだ……。お前が舞台に立つために、めちゃくちゃ頑張ってたの、知ってるから」

「……そっか」


なのに僕は……これからその親友を、裏切るのか。


「ったく、なんだよその返事は!シャキッとしろよ!!!」


そう言って、汐恩は僕の背中を思いっきり叩く。


「ッ……たっ!」

「ほら、集中、集中!!!」


汐恩なりに喝を入れてくれたんだろう。
背中が、ジンジンと痛い。

いや、痛いのは……背中だけじゃない……か。


「……うん。ごめん、僕、ちょっとトイレ行ってくる……」


そう言って、僕は楽屋をでた。
後ろからは、早く帰ってこいよ!と汐恩が聞こえたけれど、僕はその声に返事をしなかった。
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