ハリボテロミオの夏の夢


「何やってるんだよ、あいつ……!トイレって言ったっきり戻ってこないなんて!!!」


そう言うのは、すでに制御室でスタンバイをする汐恩だった。
あれから何回も、玲央にスマホで連絡をするも一切反応がない。


「…大丈夫ですかね?この舞台……」

「わかんねぇ……」


ロミオの代役で玲央が抜けるため、玲央の代わりに照明を汐恩が、汐恩の代わりに音響を後輩が担うことになっていた。
いつも以上に、制御室は緊張で満ちている。


「でも、やるしかねぇだろ……」


そう、決めたんだから。と、汐恩は唾を飲み込む。
カーテンコールまで、あと5分。

場所は変わって舞台裏には、制御室にも増して不安が広がっていた。

それでもカーテンコールを決めたのは、


「大丈夫。玲央くんは……ロミオは、きっとくるから」


朱里だった。
棄権しようという声が多く上がる中、彼女が強くカーテンコールを希望したのだ。


「本当に、大丈夫なのか?」

「蘭くん……ッ!」


松葉杖をつきながら、部員の前に現れたのは蘭だ。
その右脚は、ギプスでしっかりと固定されている。


「蘭?!大丈夫なのか?」

「あまり動かなければ大丈夫だ。それより、あいつが来てないんだろ?」


あんな奴を代役にするなんて……何考えてんだ。
と、蘭は怒りを露わにする。


「なあ、代わりの衣装はないのか?」

「えっ……」

「あいつを待つくらいなら、俺が出た方がましだろ?」

「あ……えっ……と……」


確かに、蘭にやってもらった方がいいんじゃないかと、一部の部員は思った。
けれど、


「……大丈夫」


朱里は、静かにそれを否定した。


「絶対に、玲央くんは来てくれる」


まっすぐ、舞台を見つめる朱里。
そこには不安そうに立つ、開演を告げる序詞役の部員がいた。
けれどその部員も、朱里のその瞳に覚悟を決めた。


「ただいまより、エントリーナンバー325、琴華中学校演劇部による舞台を開演します。演目は、ロミオとジュリエット」


アナウンスが入り、会場で拍手が鳴り響く。
そして、ゆっくりと幕が開いた。

真っ暗な舞台。
その中央にだけ、パッとスポットライトが当たる。


「舞台は花の都、ヴェローナ。これは歪みあう両家の間に生まれた、若い二人の物語。詳細は、これからご覧くださいませ」


そう言って、助詞役の部員が深く頭を下げると、ライトが消え再び舞台の上は暗くなった。

もう、後戻りはできない。

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