ハリボテロミオの夏の夢

ロミオが不在の中、第一幕が始まった。

物語は、ロミオの家の従者とジュリエットの家の従者の間で暴動が起こったため、両家ともに太守に呼ばれ、咎められるところから始まる。観客に、両家に確執があることを示すためだ。

その後、場面はジュリエットの家に切り替わる。
この日、ジュリエットの家では仮面舞踏会が開かれることになっていた。
そこでジュリエットの母は、ジュリエットに夫になるような相手を見つけてはどうかと提案する。
もちろん、ジュリエットにその気はない。

なので、仮面舞踏会でジュリエットは、適当に言い寄ってくる男達を軽くあしらっていた。
退屈な仮面舞踏会。そう思っていた時だった。


「ッ……!」


ジュリエット役の朱里は、眼を見開いて舞台袖をまっすぐに見つめる。
そこにいる誰かと……ロミオと、目があったことを視線で表したのだ。

けれどタイミング悪く、ジュリエットは別の男性とダンスを踊ることになってしまったので、ロミオの元へ行きたくても行くことができない。
それでも、視線だけはずっと、ロミオのいる舞台袖をうっとりと見つめていた。

……ロミオがそこにいると、観客に思わせるために。

本来、このシーンはロミオも舞台に立って、一緒にダンスを踊るシーンになっていた。
それを朱里は、舞台を広く使うことで目線の先にロミオがいることを表現したのだ。
そして視線だけで、ジュリエットがロミオに恋したことを観客に伝える。

一曲踊り終わると、朱里は急いで乳母の元へ向かった。


「ねぇばあや、あの人は誰?あの先ほどからとても美しいダンスを踊っている……ほら、あの方よ!」


そう言って、朱里は上手(かみて)を指さす。


「あぁ、あの方ですか?なぜこんなところへ来たのか……きっと冷やかしに違いありませんわ。見てくださいませ、あの一緒にいる連中ときたら……」


苦々しく、乳母もジュリエットにつられて上手(かみて)を見る。
そこに、あたかも誰かがいるように。


「もう、そんなことはどうでもいいの。ねえ、誰なの?教えて」

「ええ、あの方ですね。あれはモンタギュー家の一人息子、ロミオですよ」

「今……今なんと言ったの?」


まさか恋をした相手が仇敵の息子だとは夢にも思わず、ジュリエットはその場に倒れそうになった。


「あぁ……たった一つの私の愛が、たった一つの憎しみから生まれるなんて……。まさか、憎い仇敵を愛さなければならないなんて……」

「まぁ、なんのことです?」

「いいえ、ただの詩よ。ついさっき一緒に踊った方から教えていただいたの」


そう言って、朱里は下手(しもて)へと姿を消した。


「……やっぱりすげぇな……朱里の奴……ロミオなしで、第一幕終わらせやがった……」


そう呟いたのは、制御室からこの様子を見ていた汐恩だ。


「で、でも先輩……この後の第二幕は、ロミオのセリフからですよ?」

「そう、だな」


玲央、何やってんだ。
早く来い。

舞台を暗転させて、再び全体を明るく照らす。
ここから、ロミオは下手(しもて)から登場するはずだった。
なのに、そこには誰もいない。

しばらくの沈黙。
一体どうしたんだろうと、観客が疑問を抱く直前だった。


「……言いたいようにいえばいい」


突如観客席から、声が上がる。
汐恩は慌てて、その声の主にスポットライトを当てる。


「奴らはこの痛みを知らないから、好き勝手言えるんだ」


そこには、玲央が堂々と立っていた。


「……あの、ばかっ!!!」


遅いって!
汐恩の額から、汗が垂れる。
その汗は、頬を伝って床に落ちていった。
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