ハリボテロミオの夏の夢


「待ってください、玲央!そっちは舞台ではありませんよ!?」


僕が倉庫を出てすぐに、今度はカーテンコールを告げるアナウンスが聞こえた。
もう、幕は開いている。


「今から直接舞台に行ってたら、ロミオの出番に間に合わない!」


現時点で、確実に第一幕には間に合わない。
そこはきっと、みんながなんとかしてくれているはずだ。
でも、第二幕に遅れるわけにはいない。
だって第二幕は、ロミオのセリフから始まるんだから。

大丈夫。
絶対に、間に合わせる。

僕は必死に、観覧席へと走った。
そっちの方が舞台裏へ回るよりも近いからだ。

重い、観客席の扉の前にようやく辿り着いて、息を整える。
何回も息を吸って、吐く。
冷たい空気が、肺を満たしていった。

その冷たさに、頭が冷静になる。
心臓の音が、バクバクとうるさい。

そうだ。
この先には、あの目がたくさんあるんだ。
一気に、体が冷えていくのを感じる。


「玲央」

「……玲央」

「玲央ぉ!」


そう、みんなが僕の名前を呼んで、そっと僕の手を握る。
指先から、じんわりと暖かさが戻ってきた。

そうだ。みんなが言ってたじゃないか。
観客が見ているのは、僕じゃない。

……ロミオだって。


「みんな、ありがとう」


僕はぎゅっと、みんなの手を握り返して、ゆっくりとはなした。

扉の向こうから、かすかに声が漏れ聞こえる。
どうやら今は仮面舞踏会のシーンみたいだ。

ゆっくり、僕は気づかれないように観客席の扉を開ける。扉は二重になっているので、光で気づかれることはまずないだろう。
でも、万が一があるので、僕はじっと気配を殺して壁際に立っていることにした。

舞台の上では、朱里さんがダンスを踊っている。
本来であれば、僕と一緒に踊って、二人が恋に落ちたことを示すシーンだ。
けれど、それを朱里さんは見つめる視線だけで、ロミオに恋心を抱いたことを表現している。

……やっぱりすごい。

たった一人で、二人が恋に落ちたことを表現してしまうなんて。

でも、次のシーンはそうはいかない。
だって第二幕は、ロミオの……僕のセリフから始まるんだから。

僕は目を閉じて、すっと息を吸う。

大丈夫。

大丈夫だ。

だって……
だって僕は、

ロミオだから。

ゆっくり眼を開けると、舞台が暗転していた。
シーンの切り替わりだ。

僕が、

ロミオが、

出ていかないと。

下ろしていた前髪をかき上げて、後ろへ流す。
いつもと違って、周りがよく見えた。

僕は一歩、また一歩、観客席の通路を進んで行く。

そして、


「……言いたいようにいえばいい」


舞台に向かって歩きながら、僕は言葉を発した。
その瞬間、パッと僕の元にスポットライトが当たる。


「奴らはこの痛みを知らないから、好き勝手言えるんだ」


僕は自分の胸を、ぎゅっと掴んだ。

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