【完結】Blackberry

47 最後の最後の

夜明け前の港は、
いつも以上に冷たかった。

東京湾の外れ――
**辰波(たつなみ)埠頭**。

コンテナが山のように積まれ、
クレーンの影が獣みたいに伸びている。

潮の匂い。
鉄の匂い。
そして――
火薬の予感。

「……配置、完了しました」

無線越しに、
各組からの報告が入る。

鬼千会。
同盟組織。
総勢、百数十名。

対するロシアマフィアは、
武装が重い。

マシンガン。
自動小銃。
手榴弾。

連中は、
“ここで終わらせる”つもりだ。

――上等だ。

「撃つな。
 合図があるまで動くな」

俺は低く指示を出す。

隣には、
古参の幹部。

その目は、
静かに燃えている。

「……来るぞ」

闇の向こう。
コンテナの隙間から、
人影が動いた。

次の瞬間。

**ダダダダダッ――!!**

マシンガンの咆哮。

コンクリートが弾け、
火花が散る。

「散れッ!!」

一斉に動く。

銃声。
怒号。
破裂音。

手榴弾が投げ込まれ、
爆風が港を揺らした。

耳鳴りの中、
俺は走る。

腰の拳銃を抜き、
引き金を引く。

――躊躇はねぇ。

仲間を守るためだ。

「右、来るぞ!」

「伏せろ!」

日本刀が抜かれる音。

銃声の中で、
刃が閃く。

距離が詰まった瞬間、
銃は役に立たねぇ。

刃と刃。
ナイフと素手。

血の匂いが、
風に混じる。

「会長!」

部下が叫ぶ。

俺の前に、
ロシアマフィアの幹部らしき男。

大柄。
鋭い目。

ナイフを構えて突っ込んでくる。

俺は一歩踏み込み、
その腕を弾き、
拳銃の柄で顎を打つ。

男が崩れる。

「……日本を、
 舐めるな」

低く呟いた。

その時。

**ドンッ!!**

また爆発。

コンテナが横倒しになり、
火が上がる。

だが――
こちらの動きは止まらない。

連携。
包囲。
退路遮断。

日本極道が、
一つの意思で動いている。

「前へ!」

俺は叫ぶ。

「押し切れ!!」

銃声が、
次第に減っていく。

ロシア側の無線が、
錯乱した声を上げる。

――崩れ始めた。

逃げようとする連中を、
包囲網が潰す。

最後に残ったのは、
港の先端。

追い詰められた男たち。

リーダー格が、
怒鳴る。

「交渉だ!
 話せ!」

俺は、
銃を下ろさなかった。

「話は、
 もう終わった」

静かに言う。

「ここは、
 日本だ」

一瞬の沈黙。

次の瞬間。

最後の銃声が、
夜明け前の空に響いた。

---

戦いが終わった。

港に、
静けさが戻る。

サイレンは、
まだ鳴らない。

夜明けの光が、
海を薄く染める。

「……終わりました」

部下の声。

俺は、
深く息を吐いた。

勝った。

鬼千会は――
日本の極道は、
この夜を守り切った。

ふと、
頭に浮かぶ顔。

梨紗。

俺は無線を取る。

「……無事だ」

短く、それだけ。

返事はすぐに来た。

『おかえり』

その一言で、
全てが報われた気がした。

俺は港を見渡す。

ここから先、
楽な道じゃねぇ。

だが――
生き残った。

血の世界で、
それでも未来を選んだ。

鬼千会は、
終わらない。

俺がいる限り。
< 47 / 48 >

この作品をシェア

pagetop