【完結】Blackberry

6 オリオン

深いグリーンのエプロンを軽くはたいて、それを付けると、一ノ瀬さんは手際よくエッグベネディクトを作っていった。

最後にカリカリに焼いたイングリッシュマフィンにベーコンとベビーリーフを挟むと、上にぷるんぷるんの卵を乗せて、高い位置からソースをかけた。

「はい、お待ちどう様。」

一ノ瀬さんはそう言うと2つのエッグベネディクトの乗った皿を私に差し出した。
焦る気持ちがフォークとナイフの邪魔をする。
何とか卵を切ると、とろとろの半熟黄身ソースが現れた。
私は一口、また一口とそれを食べる。

「お、美味しい…!」

「だろー?
伊達に喫茶店のオーナーやってないぜ?」

一ノ瀬さんは機嫌良さそうにそう言って食後のコーヒーをたてている。

「ホットコーヒー?
エスプレッソ?
カフェラテ?」

「カフェオレで…」

「第4の選択肢を出すなよ…」

ふと、一ノ瀬さんが笑うと、目尻に軽く皺がより、すごく柔らかい雰囲気になった。
それが、なんだかすごく愛おしくて…

いけない!
この人は極道なのよ!
女なんて、快楽の道具としか思ってないんだから!!!

私は強く自分に言い聞かせた。

エッグベネディクトをぺろりと平らげて、口の中は、黄身と白身とアリオリソースの風味でいっぱいだった。
はぁぁぁあ…
美味しかったなぁぁ…

「口にソースついてるぞ。
そっち。
うそ、こっち。」

ヒョイと一ノ瀬さんは私の唇を指で拭い取った。
そして、それをぺろりと舐めた。

「な、な、何するんですかぁ!!」

「はぁぁ…?
そんなに真っ赤になる事かよ…
大袈裟な…」

彼はカフェオレを私に差し出した。

コーヒーと牛乳のバランスがとても良い、さっぱりしたカフェオレだった。

「どうだよ、満足したかよ?」

「はい、美味しかったです…
あの、でもここって…?
ヤクザなのに…」

余計な事を言ったかな?と思ったが、一ノ瀬さんは穏やかにコーヒーを飲みそれに答えた。

「今時のヤクザはヤクザ屋です!って看板掲げるのは法律で御法度なんだよ。
だから、ヤクザはみんなフロント企業ってのを持っている。
要するに表向きの会社さ。
それは、俺みたいに飲食店だったり、普通の会社だったり、色々だけどな。
まぁ、俺たちも時代の波に置いていかれないように、大変ってわけさ。」

「へぇ…
そうなんですね…」

「上は事務所になってて、まぁ、要するにヤクザ事務所だな。
電話番に24時間人が居る。
いついかなる時に抗争やケンカが起こるか、わからねーからな。」

「へぇ…」

「あと…
お前の事だが…
一年経ったら、元の世界に返してやろうと思ってる…」

彼は少し俯いてそう言った。
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