この恋に名前をつけるとするならば


命くんに別れを告げたあの日から、わたしは一度も命くんに会っていない。

ただ最近、『期待の大型新人バンド』と注目されているのは知っていた。

テレビのニュースやCMに流れてくる命くんの姿。
それを見て、わたしは(これで良かったんだ······)と自分の中で何度も唱えた。

「麗月さま。」

そんなわたしを見て、中村さんはそっとわたしの隣に腰を掛けると、エプロンで優しくわたしの涙を拭ってくれた。

「あ、ごめんなさい。」

自分が涙を流している自覚がなく、慌てて服の袖で涙を拭う。

すると中村さんは「自分の気持ちに嘘をつくのは、心に毒ですよ。」と言い、「泣きたい時は、泣きましょう。わたししか見ていませんから。」と言ってくれた。

テレビの中で歌う命くん。
やっぱりかっこいいなぁ······

ライブハウスで初めて命くんを見た時のあの衝撃は、今でも忘れられない。

でもわたしは、普段の命くんも大好きだった。
素直で無邪気に笑う命くんの姿が、大好きだった。

しかし、あの頃の命くんに、もう出会う事は出来ない。

こんなに苦しくなるなら、最初から出会わなければ良かった······
そんな事さえ、思うようになってしまっていた。



あれから、どれくらいの月日が経っただろうか。
日が落ちるのが早くなり、ずっと向こう側の空までオレンジ色に染まって見える。

わたしの寝室からは、綺麗な景色がよく見えた。

すると、寝室のドアがノックされ、わたしが「はい。」と返事をすると、寝室のドアが開き、中村さんが顔を覗かせた。

「麗月さまにお客様がいらっしゃってますよ。」

そう言う中村さんの言葉にわたしは「わたしにお客さん?」と首を傾げる。

この雅の家に引っ越して来てから、わたしに客人など来た事がなかった。

「お通ししても、よろしいですか?」

中村さんの言葉にわたしが頷くと、中村さんは「どうぞ。」と言い、客人をわたしの寝室に促した。

そこで姿を現したのは、黒いキャップ帽子の下にサラサラの黒髪を忍ばせ、クロブチ眼鏡を掛けた人物だった。

「ども、白猫運輸でーす!なんちゃって。」
「えっ···、嘘でしょ······」

そこに立っていたのは、キャップ帽子をはずし、何だか照れくさそうな表情を浮かべる命くんの姿だったのだ。
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