それぞれの幸せ
 結婚披露宴のあと、そんな芽生と話すのが怖くて、逃げ帰るように雑踏にまぎれて式場をあとにしてしまった。

 佐山に頼んで連れ帰ってもらったマンションでの、荷造り――。
 雄ちゃんからもらったもの、彼と過ごした日々に繋がる全てを置いていくと決めた時の、胸の痛み。
 それはしろだって同じはずなのに、……どうしてもこの子だけは置いてこられなかった。

 佐山の提案で、雄相会(ゆうそうかい)へ立ち寄ったとき、心の片隅で最後に一目、雄二に会えることを期待していたと言ったら、罰が当たるだろうか。
 結局雄二には会えなかったけれど、きっとそれで良かったのだ。
 もし、彼の顔を見ていたら、雄二は百合香の決意を鈍らせていたかもしれない。
 雄相会の皆へ託したデジカメ内のデータを、『雄ちゃんにも絶対見せてあげてね? あの人、素直じゃないから、自分からは見たいって言えないと思うの。だから……佐山くんから上手に見せてあげて欲しい』。――車中で、再度そう佐山にお願いを重ねたら、佐山に泣きそうな顔をされた。
 泣きたいのはこっちなのに……という思いをグッと押し殺して、駅まで送ってもらったこと。
 心とは裏腹に、晴れ晴れとした微笑みを浮かべて、佐山に別れを告げたこと。
(どうか……自分のせいだとは思わないでね?)
 心の中でそんなエールを送ったつもりの笑顔だった。
 ――百合香さんは、笑顔で旅立ちました。
 きっと雄二から責められるであろう佐山に、そんな言い訳をさせてあげたいと思ってしまった。
(だって、きっかけはどうあれ、雄ちゃんから離れる決意を固めたのは《《私自身》》なのだから)
 その責任を、佐山や……ましてや花束を贈ってくれた芽生に抱いて欲しくなかった。
(芽生ちゃん……)
 花束を置いてきたことは、良くなかったかもしれない。
 見るのがつらくても、あれを残してきたことで、芽生に嫌な想いをさせてしまうかも……と思い至って、百合香は小さく吐息を落とした。
(ごめんね。芽生ちゃん。あなたの真心を踏み躙るような真似をして)
 几帳面な雄二は、きっと百合香がいなくなったマンションの整理をしてくれるだろう。そのとき、芽生には気づかれないようにダメになったブーケをそっと処理して欲しい。
(雄ちゃんならきっとそうしてくれるよね?)
 またしても雄二のことを考えてしまっていることに、百合香は小さく溜め息を落とした。
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