それぞれの幸せ
ホテルの外へ出ると、すでにタクシーが待っていた。
駅前ということもあって、何台かのタクシーが常駐していたのだ。
(呼ぶ必要なかったかな……)
きっと、地元にいたならば感覚的にそんなこと分かっただろうに、やはり慣れない土地というのはそういう勘が鈍るらしい。
百合香は心の中で自嘲すると、扉を開けてくれたタクシーへ乗り込んだ。
「唐戸市場までお願いします」
「はいよ」
車がゆっくりと走り出す。
本当は歩いた方が地形なんかを理解するのにいいのかもしれない。
でも、スマートフォンの電源を入れっぱなしに出来ない現状では、ナビを使うことは出来なかった。
(帰りは歩いて帰ろうかな)
そんなことを思いながら、百合香は窓の外へ流れていく街並みを眺める。
昨日はここへ辿り着くことで精一杯だった。
だから街を見る余裕なんてなかったけれど、こうして改めて眺めてみると、下関は海の気配がとても近い街だった。
潮の香り。
遠くに見える大きな橋。
港へ停泊する船。
どれも見慣れた景色とは違っていて、それだけで少しだけ旅をしているような気分になる。
「観光ですか?」
運転手がバックミラー越しに笑い掛けてきた。
「え? あ、はい……そんな感じです」
本当は違う。
けれど、そう答えるしかなかった。
「唐戸市場なら朝から賑やかですよ。下関は海に面しちょりますけぇ魚介類は新鮮でおすすめです」
「そうなんですね」
「歩いて駅の方まで戻る人も結構いらっしゃいますよ。景色を見ながらのんびり散策するのもええもんです」
百合香は小さく頷いてから、ハッとする。
「……すみません。近いのに」
「あー、私ん言い方が悪かったですね。そういう意味っちゃないですよ。近いっちゅうてもワンメーターじゃ到底たどり着けん距離やけ、そこは気にせんでください」
それを聞いて、ちょっとだけホッとする。
「お客さんは何かと気遣いの出来る人なんじゃね」
ふっとミラー越しに微笑まれて、百合香は曖昧に微笑んだ。
雄二にも同じようなことを言われたことがある。
もっとワガママになっていい、とも。
(あ、また……)
百合香はまたしても無意識に雄二のことを思い出している自分に気が付いて、小さく吐息を落とした。
十分ほどでタクシーは唐戸市場へ到着した。
料金を支払い、車を降りる。
市場の中へ一歩足を踏み入れた瞬間、威勢のいい呼び込みの声が耳へ飛び込んできた。
「いらっしゃい!」
「朝獲れだよ!」
「食べてって!」
店先には新鮮な魚介が所狭しと並び、それらを使って握られた寿司や、海鮮丼を売り買いする人たちで賑わっている。
「すごい……」
思わず小さく呟く。
活気に満ちた市場を歩いていると、不思議と気持ちまで少しだけ軽くなっていく気がした。
(しろ、お魚好きだったもんね)
もちろん今は食べられない。
それでも、お供えによさそうなものがあれば買って帰ろう。
そんなことを考えながら店先を見て回る。
(……?)
ふと、背中へ何かが触れたような感覚が走った。
思わず振り返る。
駅前ということもあって、何台かのタクシーが常駐していたのだ。
(呼ぶ必要なかったかな……)
きっと、地元にいたならば感覚的にそんなこと分かっただろうに、やはり慣れない土地というのはそういう勘が鈍るらしい。
百合香は心の中で自嘲すると、扉を開けてくれたタクシーへ乗り込んだ。
「唐戸市場までお願いします」
「はいよ」
車がゆっくりと走り出す。
本当は歩いた方が地形なんかを理解するのにいいのかもしれない。
でも、スマートフォンの電源を入れっぱなしに出来ない現状では、ナビを使うことは出来なかった。
(帰りは歩いて帰ろうかな)
そんなことを思いながら、百合香は窓の外へ流れていく街並みを眺める。
昨日はここへ辿り着くことで精一杯だった。
だから街を見る余裕なんてなかったけれど、こうして改めて眺めてみると、下関は海の気配がとても近い街だった。
潮の香り。
遠くに見える大きな橋。
港へ停泊する船。
どれも見慣れた景色とは違っていて、それだけで少しだけ旅をしているような気分になる。
「観光ですか?」
運転手がバックミラー越しに笑い掛けてきた。
「え? あ、はい……そんな感じです」
本当は違う。
けれど、そう答えるしかなかった。
「唐戸市場なら朝から賑やかですよ。下関は海に面しちょりますけぇ魚介類は新鮮でおすすめです」
「そうなんですね」
「歩いて駅の方まで戻る人も結構いらっしゃいますよ。景色を見ながらのんびり散策するのもええもんです」
百合香は小さく頷いてから、ハッとする。
「……すみません。近いのに」
「あー、私ん言い方が悪かったですね。そういう意味っちゃないですよ。近いっちゅうてもワンメーターじゃ到底たどり着けん距離やけ、そこは気にせんでください」
それを聞いて、ちょっとだけホッとする。
「お客さんは何かと気遣いの出来る人なんじゃね」
ふっとミラー越しに微笑まれて、百合香は曖昧に微笑んだ。
雄二にも同じようなことを言われたことがある。
もっとワガママになっていい、とも。
(あ、また……)
百合香はまたしても無意識に雄二のことを思い出している自分に気が付いて、小さく吐息を落とした。
十分ほどでタクシーは唐戸市場へ到着した。
料金を支払い、車を降りる。
市場の中へ一歩足を踏み入れた瞬間、威勢のいい呼び込みの声が耳へ飛び込んできた。
「いらっしゃい!」
「朝獲れだよ!」
「食べてって!」
店先には新鮮な魚介が所狭しと並び、それらを使って握られた寿司や、海鮮丼を売り買いする人たちで賑わっている。
「すごい……」
思わず小さく呟く。
活気に満ちた市場を歩いていると、不思議と気持ちまで少しだけ軽くなっていく気がした。
(しろ、お魚好きだったもんね)
もちろん今は食べられない。
それでも、お供えによさそうなものがあれば買って帰ろう。
そんなことを考えながら店先を見て回る。
(……?)
ふと、背中へ何かが触れたような感覚が走った。
思わず振り返る。