それぞれの幸せ
自動ドアの向こうへ佐山の姿が消えるまで見送ってから、百合香は雄二を見上げる。
「……何の話だったの?」
尋ねると、雄二は少しだけ口元を緩めた。
「あとのお楽しみだ」
それ以上は教えてくれない。
(……?)
気になったけれど、彼の表情はどこか楽しそうで――。
百合香は小さく首を傾げながらも、それ以上は聞かなかった。
***
ホテルを出ると、少し蒸した空気が頬を撫でた。
海の方から吹く潮風が心地いい。
昨日までと同じ道を歩いているはずなのに、不思議と景色が違って見えた。
あの時は心細くて、不安で、それでも前へ進むしかなかった。
だけど今日は違う。
隣に、雄二がいてくれる。
たったそれだけで、不思議なくらい心が浮き立った。
雄二は腕時計へ目を落とした。
「まだ時間があるな」
「?」
「新下関へ向かう前に、少し歩くか」
思いがけない提案に、百合香は目を丸くした。
「いいの?」
「ああ」
その短い返事だけで十分だった。
百合香は自然と笑みを浮かべる。
二人は肩を並べ、ゆっくりと歩き始めた。
歩幅を合わせて歩くだけなのに、それが嬉しい。
何気ない時間さえ、今の百合香にはかけがえのないものだった。
「今日はね、本当はハローワークへ行こうと思ってたの」
雄二が百合香を見る。
「仕事を探すつもりだったのか」
「うん」
百合香は小さく頷く。
「携帯も新しくしたし……生活していかなきゃって思ってたから」
「……必要なくなってよかった」
「うん」
百合香がうなずくと、雄二が心の底から安堵したように、静かに息を吐いた。
「そのあと、海峡メッセにも寄ってみようかなって思ってたの」
「行きたかったのか」
「うん、何となく。高いところに上がったら……色々見えるかなって思って」
「そうか」
「うん」
百合香は雄二を見上げて笑う。
「でもね、今は、雄ちゃんと一緒にいられるだけで幸せだから……目的地は要らない、かな」
その言葉に雄二は照れ臭そうに鼻を鳴らした。
「じゃあ、ただぶらぶら歩くんでいいか」
「うん」
「目的地のあるデートは、また今度にしよう」
「うん」
その〝今度〟があることが嬉しくて、百合香は何度も頷いた。
しばらく海を眺めながら歩いたあと、二人は駅へ戻る途中の土産物店へ立ち寄った。
「雄ちゃん」
「ん?」
「雄相会の皆さんにも、お土産買って帰ろう?」
雄二が百合香を見た。
「雄ちゃん、きっと、私のせいで急に下関まで来ることになったでしょう?」
「……」
「佐山くんも、何日も私を追うことになったみたいだし……きっと事務所の皆さんにも、いっぱい迷惑掛けちゃったと思うの」
百合香は申し訳なさそうに笑った。
「せめて、なにか持って帰れたらって」
「そうだな」
「何がいいかな?」
「酒とつまみが一番喜びそうだな」
雄二に勧められ、百合香はフグひれ酒や下関の地酒、それに合いそうな酒の肴を選んでいく。
「……何の話だったの?」
尋ねると、雄二は少しだけ口元を緩めた。
「あとのお楽しみだ」
それ以上は教えてくれない。
(……?)
気になったけれど、彼の表情はどこか楽しそうで――。
百合香は小さく首を傾げながらも、それ以上は聞かなかった。
***
ホテルを出ると、少し蒸した空気が頬を撫でた。
海の方から吹く潮風が心地いい。
昨日までと同じ道を歩いているはずなのに、不思議と景色が違って見えた。
あの時は心細くて、不安で、それでも前へ進むしかなかった。
だけど今日は違う。
隣に、雄二がいてくれる。
たったそれだけで、不思議なくらい心が浮き立った。
雄二は腕時計へ目を落とした。
「まだ時間があるな」
「?」
「新下関へ向かう前に、少し歩くか」
思いがけない提案に、百合香は目を丸くした。
「いいの?」
「ああ」
その短い返事だけで十分だった。
百合香は自然と笑みを浮かべる。
二人は肩を並べ、ゆっくりと歩き始めた。
歩幅を合わせて歩くだけなのに、それが嬉しい。
何気ない時間さえ、今の百合香にはかけがえのないものだった。
「今日はね、本当はハローワークへ行こうと思ってたの」
雄二が百合香を見る。
「仕事を探すつもりだったのか」
「うん」
百合香は小さく頷く。
「携帯も新しくしたし……生活していかなきゃって思ってたから」
「……必要なくなってよかった」
「うん」
百合香がうなずくと、雄二が心の底から安堵したように、静かに息を吐いた。
「そのあと、海峡メッセにも寄ってみようかなって思ってたの」
「行きたかったのか」
「うん、何となく。高いところに上がったら……色々見えるかなって思って」
「そうか」
「うん」
百合香は雄二を見上げて笑う。
「でもね、今は、雄ちゃんと一緒にいられるだけで幸せだから……目的地は要らない、かな」
その言葉に雄二は照れ臭そうに鼻を鳴らした。
「じゃあ、ただぶらぶら歩くんでいいか」
「うん」
「目的地のあるデートは、また今度にしよう」
「うん」
その〝今度〟があることが嬉しくて、百合香は何度も頷いた。
しばらく海を眺めながら歩いたあと、二人は駅へ戻る途中の土産物店へ立ち寄った。
「雄ちゃん」
「ん?」
「雄相会の皆さんにも、お土産買って帰ろう?」
雄二が百合香を見た。
「雄ちゃん、きっと、私のせいで急に下関まで来ることになったでしょう?」
「……」
「佐山くんも、何日も私を追うことになったみたいだし……きっと事務所の皆さんにも、いっぱい迷惑掛けちゃったと思うの」
百合香は申し訳なさそうに笑った。
「せめて、なにか持って帰れたらって」
「そうだな」
「何がいいかな?」
「酒とつまみが一番喜びそうだな」
雄二に勧められ、百合香はフグひれ酒や下関の地酒、それに合いそうな酒の肴を選んでいく。