それぞれの幸せ
夕暮れへ向かって色を変え始めた街並みが、ゆっくりと後ろへ流れていく。
山々。
その向こうに広がる空。
少しずつ遠ざかっていく下関。
(ありがとう)
心の中だけで、小さく呟いた。
逃げるために降り立った街だった。
けれど帰る今、その街は大切な人が迎えに来てくれた思い出の場所になった。
ふと隣を見る。
雄二は腕を組んだまま、静かに目を閉じていた。
(……雄ちゃん?)
呼び掛けようとして、その表情に気付く。
険しかった眉間の皺は消え、張り詰めていた空気もない。
ようやく心から安堵したのだろう。
雄二は穏やかな寝息を立てていた。
(寝ちゃったんだ……)
百合香は思わず微笑む。
この数日、ほとんど眠れていないと言っていた。
再会したときに目にした、隈の浮いたやつれ顔を思い出す。
(良かった……)
きっと彼は今、ようやく安心して眠れたのだ。
百合香はせっかく眠れた雄二を起こさないよう、そっと息を潜める。
新幹線は一定のリズムを刻みながら、西から東へと走り続けていた。
しばらくすると、こつん、と小さな重みが肩へ伝わった。
「……!」
驚いて横を見る。
雄二の頭が、百合香の肩へそっと寄り掛かっていた。
規則正しい寝息。
起きる気配はない。
(ふふ……)
思わず笑みが零れる。
よほど安心したのだろう。
普段の雄二なら、人前でこんなふうに眠ることはない。
まして誰かに身体を預けるなんて、きっと。
百合香は起こさないよう、そっと肩へ力を入れた。
少しでも雄二が楽に眠れるように。
それだけを願って、身じろぎひとつせず窓の外を眺めた。
流れていく景色は少しずつ見慣れた街並みへと変わっていく。
それでも雄二は目を覚まさない。
本当に疲れていたのだ。
そんな彼の寝顔を見つめながら、百合香は静かに思う。
(迎えに来てくれて、ありがとう)
あの日。
何も告げずに一人で出て行った自分を、責めることも見放すこともなく、この人は迎えに来てくれた。
その温もりが、今も肩から伝わってくる。
車内アナウンスが静かに流れる。
『間もなく――駅に到着です。お降りのお客様は、お忘れ物のないよう……』
百合香は少しだけ困ったように笑う。
「雄ちゃん……」
小さく名前を呼んでも返事はない。
「もう着くよ?」
今度は肩へ寄り掛かった頭を揺らさないよう、そっと腕へ触れる。
「……ん」
雄二はゆっくりと瞼を開いた。
「悪い……寝てしまってたか」
「うん。ぐっすり」
百合香がくすっと笑うと、雄二は気まずそうに頭を掻いた。
「肩、重くなかったか?」
「全然」
首を横に振る。
「むしろ嬉しかった」
その一言に、雄二は照れ隠しのように鼻を掻いた。
「……そうか」
それ以上は何も言わなかった。
雄二は立ち上がると、荷物棚から百合香のバッグと土産の紙袋を下ろした。
バッグを受け取った百合香は、続けて紙袋へ手を伸ばしたのだけれど――。
「俺が持つ」
雄二はそれだけ言って紙袋は自分の手に提げてしまった。
百合香は思わず苦笑する。
山々。
その向こうに広がる空。
少しずつ遠ざかっていく下関。
(ありがとう)
心の中だけで、小さく呟いた。
逃げるために降り立った街だった。
けれど帰る今、その街は大切な人が迎えに来てくれた思い出の場所になった。
ふと隣を見る。
雄二は腕を組んだまま、静かに目を閉じていた。
(……雄ちゃん?)
呼び掛けようとして、その表情に気付く。
険しかった眉間の皺は消え、張り詰めていた空気もない。
ようやく心から安堵したのだろう。
雄二は穏やかな寝息を立てていた。
(寝ちゃったんだ……)
百合香は思わず微笑む。
この数日、ほとんど眠れていないと言っていた。
再会したときに目にした、隈の浮いたやつれ顔を思い出す。
(良かった……)
きっと彼は今、ようやく安心して眠れたのだ。
百合香はせっかく眠れた雄二を起こさないよう、そっと息を潜める。
新幹線は一定のリズムを刻みながら、西から東へと走り続けていた。
しばらくすると、こつん、と小さな重みが肩へ伝わった。
「……!」
驚いて横を見る。
雄二の頭が、百合香の肩へそっと寄り掛かっていた。
規則正しい寝息。
起きる気配はない。
(ふふ……)
思わず笑みが零れる。
よほど安心したのだろう。
普段の雄二なら、人前でこんなふうに眠ることはない。
まして誰かに身体を預けるなんて、きっと。
百合香は起こさないよう、そっと肩へ力を入れた。
少しでも雄二が楽に眠れるように。
それだけを願って、身じろぎひとつせず窓の外を眺めた。
流れていく景色は少しずつ見慣れた街並みへと変わっていく。
それでも雄二は目を覚まさない。
本当に疲れていたのだ。
そんな彼の寝顔を見つめながら、百合香は静かに思う。
(迎えに来てくれて、ありがとう)
あの日。
何も告げずに一人で出て行った自分を、責めることも見放すこともなく、この人は迎えに来てくれた。
その温もりが、今も肩から伝わってくる。
車内アナウンスが静かに流れる。
『間もなく――駅に到着です。お降りのお客様は、お忘れ物のないよう……』
百合香は少しだけ困ったように笑う。
「雄ちゃん……」
小さく名前を呼んでも返事はない。
「もう着くよ?」
今度は肩へ寄り掛かった頭を揺らさないよう、そっと腕へ触れる。
「……ん」
雄二はゆっくりと瞼を開いた。
「悪い……寝てしまってたか」
「うん。ぐっすり」
百合香がくすっと笑うと、雄二は気まずそうに頭を掻いた。
「肩、重くなかったか?」
「全然」
首を横に振る。
「むしろ嬉しかった」
その一言に、雄二は照れ隠しのように鼻を掻いた。
「……そうか」
それ以上は何も言わなかった。
雄二は立ち上がると、荷物棚から百合香のバッグと土産の紙袋を下ろした。
バッグを受け取った百合香は、続けて紙袋へ手を伸ばしたのだけれど――。
「俺が持つ」
雄二はそれだけ言って紙袋は自分の手に提げてしまった。
百合香は思わず苦笑する。