それぞれの幸せ
「私が持たなきゃ、誰からのお土産か微妙にならない?」
「別に、一緒に持っていけば問題ないだろ」

 雄二の言葉に、百合香は一瞬押し黙る。
「……雄ちゃんの強情っぱり」
「お前こそ」
 だが、すぐに二人は顔を見合わせ、小さく笑い合った。

 そんな二人を乗せて、新幹線は速度を落としながら、ゆっくりとホームへ滑り込んでいった。


***


 マンションへ戻ったのは、夕方だった。

 百合香が玄関の鍵を開ける手元で、赤いふくだるまが嬉しそうにゆらゆらと揺れる。

 数日しか空けていないはずなのに、扉の向こうに広がる景色はどこか懐かしく感じられた。
 もう戻ることはないと思っていたからかもしれない。

「ただいま」

 小さく呟く。
 もちろん返事はなかった。けれど、一瞬だけ奥の方から〝にゃーん〟と言いながら走り出てくる白い猫の幻影を見た気がして、胸が少しだけ締めつけられる。

 それでも、不思議と涙は出てこない。

 きっと、隣に雄二がいてくれるからだろう。
 たったそれだけのことで、この部屋はちゃんと帰る場所になっていた。

 雄二は百合香のバッグと土産の紙袋を運び入れると、玄関の隅へ置いた。

「すまん。少し電話してくる」
「うん」

 短く頷く。

 雄二は綺麗に靴をそろえて脱ぐと、スマートフォンを片手にベランダへと続く窓際へ歩いて行った。

(そういえば……)

 百合香はその横へ寄り添わせるみたいに自分の靴を脱ぎながら思い出す。

 雄二はマンションへ戻ったら、佐山に電話すると言っていた。
雄相会(ゆうそうかい)のことで何かあるのかな?)
 きっとそうだ。
 そう思った百合香は、邪魔をしないよう自分はリビングへと入った。そうしてテーブルの上を見て、足を止める。

「あ……」

 そこには、雄二との思い出の品が、出て行った時のまま、綺麗に並べ置かれていた。

 一緒に撮った写真。
 彼から貰った数々のアクセサリー。
 誕生日に贈られた小物。
 どれも、自分にとっては大切な人から貰った、かけがえのない宝物だった。

 あの日。
 もう戻るつもりはないという、自分なりの決別とけじめのつもりで、わざと目につく場所へ並べて家を出た。

「……恥ずかしい」

 思わず頬が熱くなる。
 雄二はこれを見たのだ。

 どんな気持ちだったのだろう。

 百合香はひとつひとつを、大切に元の場所へ戻していく。

 そうして気が付いた。
「……あれ?」
 確かにここへ一緒に並べておいたはずの、芽生(めい)から贈られたチューリップのブーケがなかった。

(きっと枯れちゃったんだね……)

 当然だ。
 花瓶に生けることもなく、置いて出てしまったのだから。

(雄ちゃんが片付けてくれたのかな……)

 申し訳なさが胸を締め付ける。
 芽生が投げたブーケを、自分は確かに受け取った。
 けれど、あの時の自分には、その先にある幸せまでは受け取れなかった。

「ごめんね」

 自然と、そんな呟きが漏れる。
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