それぞれの幸せ
「そっちは、二人で取りに来る」

 一瞬、山本が目を瞬かせる。
 けれどすぐに柔らかな笑みを浮かべて、「かしこまりました」と頷いた。

 ほどなくして差し出された小さな紙袋を受け取り、雄二は席を立つ。

「ありがとうございました」

 その声に、来店時同様、軽く会釈を返して店を出た。

 手にしたものは、指輪ひとつ。
 だが雄二にとっては、二十年近く前に途切れた未来を、ようやくその先へ繋ぐためのものだった。


***


 店を出た雄二はそのまま駐車場へは向かわず、モール内の百円ショップへ寄り道した。

 案内板を見上げて向かったプレゼントグッズのコーナーで大きめの箱をひとつ選び、手芸コーナーで赤いリボンを手に取って会計を済ませる。

 そうして、今度こそ車へ向かった。


***


 雄相会(ゆうそうかい)事務所へ戻ると、雄二は買ってきた箱を自分の机の上へ置いた。

「猫は?」

 唐突な問いに、近くにいた若い衆が顔を上げる。

「ツルっすか?」
「ああ」
「カシラの椅子で寝てますよ」
「……」

 雄二の立つ位置からでは、机越しで死角になっていて見えない。
 若い衆の言葉に、回り込んでみれば確かにいた。

 雄二の椅子の上。
 座面の真ん中を我が物顔で占領し、貧相な白い身体を丸めて眠っている。

(俺の椅子はお前の寝床じゃねぇぞ)

 最近では箱に戻すことを誰もが諦めているとはいえ、こんなことを許していては、雄二のスラックスは常に猫の毛まみれになってしまう。

 小さく吐息を落としたら、ツルが薄く目を開けた。
 ぴくぴくと耳だけ動かして、また目をつぶろうとする。

「寝るな」
「ニィ……」

 雄二の言葉に、猫は不満そうに片目だけ開けて鳴いた。
 雄二はそんなツルを構わず抱き上げる。
 案の定、寝起きの悪い顔で睨まれたが、暴れはしなかった。

 片腕にツルを抱いたまま、先ほど買った赤いリボンを取り出すと、猫を机上へ乗せる。人目につかないよう、リボンへ小さなものを通してから、白い首へそっと結んだ。
 ちゃんと縦結びにならないように気を付けて、結び目を整える。
「よし」
 何の気なしにつぶやいて、ツルを再度抱き上げたら、若い衆が不思議そうにこちらを見ていた。

「カシラ」
「何だ」
「そのリボン……何すか?」
「見て分かるだろ、首輪みたいなもんだ」
「いや、それは分かりますけど」

 男は困惑した顔で、赤いリボンを付けられたツルを見る。

「何で急にツルを可愛くしようとしてんのかなって」
「……」
「カシラ、いつもこいつのこと、不細工だの可愛げがないだの言ってませんでした?」
「うるさい」
「すんませんっ」

 ぴしゃりと切られ、男は口を閉じた。
 それでも腑に落ちないらしく、ツルの首元へちらちらと視線を送ってくる。

 雄二は構わず、結び目がきつくないことだけを確かめると、
「こいつの飼い主は、まだ決まりそうにないか?」
 世間話のように切り出した。
「あ、はい。今んとこは……」
「そうか」

 短く返し、腕の中のツルを見る。

 相変わらず目つきは悪い。
 赤いリボンが似合っているのかどうかも怪しい。

「じゃあ、私が連れて帰っても問題ないな?」
「えっ!?」

 素っ頓狂な声が上がった。

 事務所にいたほかの若い衆まで一斉に振り返る。

「カ、カシラが、ですか?」
「ああ」
「ツルを?」
「他に何がいる」
「いや、だって……」

 雄二が眉を寄せる。
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