それぞれの幸せ
「何か問題があるか?」
「あ、いえ! ありません!」

 男は慌てて首を横に振った。

「っていうか、カシラが引き取ってくださるなら俺たちも安心できます!」
「なら決まりだ」
「はい!」

 ほっとしたように頷いた男が、ふとツルへ目を向ける。

「けど……」
「……?」

 雄二は無言で続きを促した。

「百合香さん、嫌がりませんか?」
「何をだ」
「その……」

 言いにくそうにツルを見る。
 ツルもまた、愛想の欠片もない顔で男を見返していた。

「こいつ……お世辞にも可愛いとは言えませんし……」
「なんだ、お前らもそう思ってたのか」
「いやっ、俺らは可愛いって思ってますよ!? その……見た目とかは別として……一応世話してますし」
「見た目は別なんだな?」
「あ、いや、可愛いっす! 見た目もなんかこう、愛嬌があって憎めないっす! けど……その……一般的な意味での可愛さとはちょっと違うっていうか……」
「同感だ。だが……」

 雄二は吐息を落とす。

「不細工なのも、性格に難があるのもちゃんと話してある」
「え?」
「それでも百合香はこいつに興味があるんだとよ」

 若い衆が目を瞬かせる。
 それから、ツルの首に結ばれた赤いリボンへ目を向けた。

「あ……」
「何だ」
「いや」

 雄二とツルを交互に見て、何やら納得したように頷く。

「……そういうことっすか」
「何がだ」
「百合香さんに見せるから、リボンを付けたんっすね」
「……」
「なるほど。ちょっとでも可愛く見せようと――」
「仕事しろ」
「はい!」

 それ以上余計なことを言えば睨まれると悟ったらしい。
 男はそそくさと離れていった。

 どうやらリボンについては勝手に納得したようだ。

 それでいい。

 雄二は腕の中のツルへ視線を落とした。

「お前もそれでいいな?」
「ニィ」
「よし」

 目つきの悪さで肯定とも否定とも分からないが、雄二は勝手に了承とみなした。

 ツルを、百円ショップで買ってきた箱へ入れる。

 プレゼント用の箱には、あらかじめ側面へいくつか空気穴を開けておいた。

 案の定、箱へ入れられたツルは気に入らないらしく、必死に箱の縁(ふち)目掛けて飛び掛かってくる。

「大人しくしてろ」
「ニィー……」

 嫌そうな声を無視してふたを閉めると、開かないようリボンを十字に掛けてしっかりと結んだ。

 仕上げに形を整えれば、どこからどう見ても立派なプレゼントだ。

 もっとも、中身は目つきが悪く、愛想もない……、隙あらば脱走を企てる子猫なのだが。

「……」

 雄二は出来上がった箱を見下ろした。

(まあ、いいだろ)

 なるべく揺らさないよう、そっと抱え上げる。

 箱の中の白猫の、その首に結ばれた赤いリボンに何が通されているのか。
 それに気付いた者は、誰もいなかった。


***


 帰宅する頃には、箱の中のツルはすっかり機嫌を損ねたのか、はたまた疲れ果てたのだろうか。あれだけガリガリと引っ掻く音がしていたのが、嘘みたいにしんと静まり返っていた。
(生きてるよな?)
 あまりに静かだから、気になって空気穴から覗くと同時、雄二が顔を近づけた穴目掛けて細い爪が出る。
(こいつ……)
 危うく目元を引っかかれるところだった。雄二は苦々しく思いながらも、ツルが元気そうにしていることに安堵する。
 とりあえず車から降りる前に再度箱を縛るリボンに緩みがないかだけ確認すると、箱を手に百合香の元を目指した。
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