それぞれの幸せ
「ゆ、ぅちゃっ……」
 口の端をどちらのものとも分からない唾液が伝う。
 それが首筋を這い伝って流れる感触にゾクリと身体を震わせながら、百合香はいつも理知的で落ち着いた様子の雄二からは想像のつかない獣のようなキスに、ただただ翻弄される。
 グッと身体が玄関先の壁へ押し付けられて、胸をギュッと鷲掴みにされる。
 痛いくらい力強く揉みしだかれて、百合香は涙をこぼしながら雄二に懸命にしがみついた。
 いつものように柔らかく微笑んで、ふんわりと包み込んで欲しい。
 美容院で綺麗に整えた髪を褒めてくれて、頬を優しくくすぐられながら、頭を撫でてもらいたい。
 だけど、今目の前にいる雄二は、百合香の後頭部へ添えた手でギュッと髪の毛ごと百合香の頭を固定して、言葉ひとつなくただただ口腔内を貪るようなキスをする。
 喉の奥が詰まってしまうほどに奥深くまで雄二の舌で掻き回され、苦しくて逃げまどう舌を、痛いくらい強く吸い上げられる。
 息が出来なくて頭がぼんやりする百合香の衣服を容赦なく剥ぎ取っていく雄二は、玄関を開けてから一度も百合香の名前すら呼んでくれていなかった。
 それがたまらなく悲しくて、愛しい男が目の前にいるのに、何故かひとりぼっちでいるみたいな錯覚に襲われてしまう。
「ゆ、ちゃ……、おねが、ぃ、もっとゆっくり……」
 唇が解かれた瞬間を見計らってなんとかそう告げたけれど、雄二は聞こえていないみたいに百合香の身体を暴いていく。
 後ろ向きに立たされて手をひとまとめに壁へ縫い付けられる。もし瞳が合ったなら何かが決壊する――。そんな逃げ方で、雄二は視線をくれなかった。
 背後から片手であっけなく自分の動きを封じてしまえる雄二の大きな手に、彼の中の〝(おす)〟を感じさせられて、壁に押さえつけられたまま、百合香の女としての本能が雄二に奥深くまで貫かれたいと(こいねが)ってしまう。
 こんな風に乱暴にされるのは嫌なのに……剥き出しにされた胸の先端を背後から伸びてきた手でキュッとこねられれば、身体がピクリと跳ねて、下から溢れた蜜が、とろりと下着を濡らしてしまう。
 口では嫌だと言いながら、身体は雄二に触れられることを悦んでいる。
 それがたまらなく恥ずかしくて……情けないと思ってしまった百合香だ。
 なのに同じ心の中で、雄二を求めるみたいに彼の下腹部へ腰を擦り寄せてしまう。
 ぐっしょり濡れた下着はきっと、百合香のいやらしい秘部をくっきりと透かしてしまっているはずだ。
 背後でバサリと衣擦れの音がして、足元へ雄二の脱いだ薄手のコートがわだかまっているのが見えた。
 同時にサイドで結ばれたショーツの紐が荒々しく解かれて、支えを失った下着がするりと肌から離れる。
 トロリと糸を引くように濡れた感触が離れていく布地と百合香の秘所を繋いで途切れた。
 雄二のコートの上に落ちた、ぐしょぐしょに濡れそぼったショーツが恥ずかしくて、百合香はそこから慌てて視線をそらした。その一瞬の間に、視界の端を掠めたのは脱がされた百合香の服だ。
 雄二からはインターフォン越しに聴いた『俺だ』以降なにも言葉をかけられないまま、全ての服を剥ぎ取られ、一糸纏わぬ姿にされてしまった。
 玄関先は肌寒いはずなのに、雄二の身体が燃えるように熱いからか、百合香は寒さを微塵も感じなかった。それどころか、雄二から伝染(うつ)された熱で、身体が火照っている。
 スーツ姿の雄二に、押さえつけられるようにして壁際に追い詰められた百合香の身体は、ほんのりと桜色に色付いていた。

 それでも百合香は問わずにはいられない。
「……雄ちゃ、な、んでっ?」
 こんな風に無理矢理身体を暴くような真似をしなくても、百合香はいつだって雄二を受け入れるのに――。
 まるで百合香からの許しを求めていないみたいにぶつけられる雄二からの一方的な暴力が、たまらなく悲しかった。
 なのに内腿をトロトロと熱い蜜が滴るのを止められなくて、自分はなんて浅ましい女なんだろう、と思わずにはいられない。こんなにレイプまがいのことをされても、百合香は雄二を求めてやまないのだ。

 何故こんなことをするの? と宙ぶらりんに問いかけたまま、雄二を振り返ろうとしたらまるでそれを許したくないみたいに雄二の太く長い指が口の中へ差し込まれてきた。
「んっ……!」
 吐き気がしてしまうくらい奥まで指を突き入れられ、口の中を激しく掻き回される。
 涙目になりながらこぼした唾液が、雄二の指を伝って、手首の辺りまで濡らしているのが分かった。
 ずるりと苦しい指の蹂躙から解放されゲホゲホとむせる百合香の秘部へ、今引き抜かれたばかりの雄二の指があてがわれる。
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