それぞれの幸せ
通りの一角に、白を基調にした上品な店構えが見えたからだ。
ガラス越しに見える店内は明るく、品よく整えられていて、いかにも若い娘が憧れそうな可憐さがある。
入口の上に掲げられた看板へ、雪絵の視線が吸い寄せられた。
――ランジェリーショップYURIKA。
洒落たローマ字の店名だった。
「ここかしら……」
百香が言っていたのは――。
そう思った、その時だった。
不意に、店の前へ一台の車が滑り込むように停まった。
見慣れた車だった。
雪絵の呼吸が、わずかに止まる。
運転席から降りてきたのは、夫の千崎雄二。
そして後部座席から姿を現したのは――もう二十年近く顔を見ていない男。
三井隆司だった。
***
家に戻った雪絵は、しばらくリビングのソファに腰を下ろしたまま動かなかった。
中通り。
ランジェリーショップ『YURIKA』。
そして――そこへ現れた雄二と三井。
普通に考えれば、その店舗が雄二と三井の所属する『相良組』の息がかかった店なのだろうとは思う。
でも……。
胸の奥に残った違和感を振り払うことができないまま、雪絵はゆっくりとスマートフォンを手に取った。
検索窓に打ち込む。
ランジェリーショップ YURIKA。
すぐにいくつかの検索結果が並んだ。
その中でも上位に表示された公式サイトらしきページを開く。
白を基調にした、上品で洗練されたデザインのサイトだった。
先ほど見た店舗の雰囲気とも合致する。
商品紹介。
コンセプト。
店舗情報。
雪絵は、指先で画面を静かにスクロールさせていく。
ページの下部に、小さく並んだリンクの中に【特定商取引法に基づく表記】という文字を見つけた。
雪絵はそれをタップする。
表示されたのは、事務的な文字ばかりの簡素なページだった。
――運営会社
――所在地
――電話番号
――営業時間
淡々と並ぶ情報を、雪絵は何気なく指でなぞるように読み流していく。
そして、ふと手を止めた。
ページの下の方に、小さく記された項目。
――店舗責任者
その横に書かれていた名前を、雪絵はしばらく見つめていた。
――桐生百合香
ゆりか。
その響きを、頭の中でゆっくりなぞる。
百合香。
……百の香り。
雪絵は、スマートフォンの画面を見つめたまま、小さくつぶやいた。
「……百香」
そうして、ゆっくりと画面を閉じた。
桐生百合香。
その名前を、胸の奥でもう一度だけなぞる。
けれどそれ以上は何も考えず、雪絵はゆっくりと立ち上がった。
夕飯の支度をしなければならない。
もうすぐ――可愛い百香が帰ってくる。
「ママ、ただいまー!」
「おかえりなさい、百香」
雪絵は、いつものように娘を出迎えると、笑顔でその名を呼んだ。
ガラス越しに見える店内は明るく、品よく整えられていて、いかにも若い娘が憧れそうな可憐さがある。
入口の上に掲げられた看板へ、雪絵の視線が吸い寄せられた。
――ランジェリーショップYURIKA。
洒落たローマ字の店名だった。
「ここかしら……」
百香が言っていたのは――。
そう思った、その時だった。
不意に、店の前へ一台の車が滑り込むように停まった。
見慣れた車だった。
雪絵の呼吸が、わずかに止まる。
運転席から降りてきたのは、夫の千崎雄二。
そして後部座席から姿を現したのは――もう二十年近く顔を見ていない男。
三井隆司だった。
***
家に戻った雪絵は、しばらくリビングのソファに腰を下ろしたまま動かなかった。
中通り。
ランジェリーショップ『YURIKA』。
そして――そこへ現れた雄二と三井。
普通に考えれば、その店舗が雄二と三井の所属する『相良組』の息がかかった店なのだろうとは思う。
でも……。
胸の奥に残った違和感を振り払うことができないまま、雪絵はゆっくりとスマートフォンを手に取った。
検索窓に打ち込む。
ランジェリーショップ YURIKA。
すぐにいくつかの検索結果が並んだ。
その中でも上位に表示された公式サイトらしきページを開く。
白を基調にした、上品で洗練されたデザインのサイトだった。
先ほど見た店舗の雰囲気とも合致する。
商品紹介。
コンセプト。
店舗情報。
雪絵は、指先で画面を静かにスクロールさせていく。
ページの下部に、小さく並んだリンクの中に【特定商取引法に基づく表記】という文字を見つけた。
雪絵はそれをタップする。
表示されたのは、事務的な文字ばかりの簡素なページだった。
――運営会社
――所在地
――電話番号
――営業時間
淡々と並ぶ情報を、雪絵は何気なく指でなぞるように読み流していく。
そして、ふと手を止めた。
ページの下の方に、小さく記された項目。
――店舗責任者
その横に書かれていた名前を、雪絵はしばらく見つめていた。
――桐生百合香
ゆりか。
その響きを、頭の中でゆっくりなぞる。
百合香。
……百の香り。
雪絵は、スマートフォンの画面を見つめたまま、小さくつぶやいた。
「……百香」
そうして、ゆっくりと画面を閉じた。
桐生百合香。
その名前を、胸の奥でもう一度だけなぞる。
けれどそれ以上は何も考えず、雪絵はゆっくりと立ち上がった。
夕飯の支度をしなければならない。
もうすぐ――可愛い百香が帰ってくる。
「ママ、ただいまー!」
「おかえりなさい、百香」
雪絵は、いつものように娘を出迎えると、笑顔でその名を呼んだ。