それぞれの幸せ
いつも雄二が乗っている車より数段高級仕様なのは、百合香を相良のマンションへ送り届けた後、相良が雄二とともにこの車で出かけるため――。
要するに、組長仕様の車なのだ。
「赤ちゃん?」
「ああ、〝殿様〟って名付けられたのが納得できるような、変な柄の子猫だ。その猫がな、ちょっと体調を崩して入院していたんだが……実は、今日退院することになっている。おそらく、百合香が神田さんといる間に、佐山が連れ帰ってくると思う」
そう言われて、
「……佐山さんが……」
一瞬だけ胸がきゅっと締めつけられる。
けれど――。
「……そっか。退院するんだ」
そう言って、少しだけ笑った。
「元気になって、よかった……」
言ったあとで、ほんの少しだけ違和感が残る。だけど気付かないふりをした。
だが、雄二は何か思うところがあったんだろう。
「……本当に、平気か?」
百合香の方を向いて、そう問いかけてきた。
「何が?」
百合香は、わざと軽く返す。
なのに――。
「……猫」
雄二が決定的な言葉を投げかけてくるから、知らず知らずのうちにより一層頑張ってしまう。
「もう、雄ちゃんってば気にしすぎ。……私、しろのことは覚悟できてたって言ったじゃない」
「……ああ、そうだったな……」
「だから、ね? 変に気にしないで? 平気だって思ってるのに……雄ちゃんに心配されたら、落ち込んじゃいそう」
「……すまん」
百合香がにこっと笑って見せると、雄二が謝りながらも、どこか安心したように小さく吐息を落とした。
彼が思いのほか自分のことを心配してくれていたのだと分かって、この人に心配をかけてはいけない、と百合香は一層気持ちを引き締める。
(そう。私は大丈夫、だよ……?)
そう告げることで、雄二がひとつでも背負っているものを下ろしてくれるなら、それでいい。
何より、どんなに泣きわめいたところで、可愛いしろは戻ってこない。
今さらどうしようもないことに、いちいち立ち止まってめそめそすることで、百合香が守りたい大切な人に心配をかけてしまうのは何としても避けたかった。
百合香は悲しみに浸かることも出来ないまま――、平気なふりをし続ける。
愛する雄二のために。
***
――初めて会った神田芽生という女の子は、思っていたよりもずっと小さくて……その姿は、あまりにも無防備だった。
「……あの、今日は、ありがとうございます」
ベッドの上で身体を起こしながら、ぺこりと頭を下げてくる。
熱で頬が赤くなっているのに、それでもちゃんと気を遣おうとしているのが分かって、
(ああ、この子――、相良さんに愛されてるんだな)
と思った。
「いいのいいの。気にしないで」
自然と、声が柔らかくなる。
それと同時に――まだこの部屋に、〝殿様〟と呼ばれている子猫の姿がないことに、ほんのわずかに息が抜けた。
もし今、無邪気に甘えてくるその姿を見てしまったら、張り詰めている何かが、崩れてしまいそうな気がしたからだ。
「……よかった」
何が、とは言わずに小さくつぶやく。
芽生のような子は、守られていい。
守られて、当たり前の場所にいていい子だ。
***
会話は、思っていたよりもずっと弾んだ。
下着の話。
お店の話。
そして――髪の話。
「私、百合香さんって私と同じくらい髪の長い人だと思ってました」
芽生がそう言って、ベッドの中から百合香の方を見上げてくる。
要するに、組長仕様の車なのだ。
「赤ちゃん?」
「ああ、〝殿様〟って名付けられたのが納得できるような、変な柄の子猫だ。その猫がな、ちょっと体調を崩して入院していたんだが……実は、今日退院することになっている。おそらく、百合香が神田さんといる間に、佐山が連れ帰ってくると思う」
そう言われて、
「……佐山さんが……」
一瞬だけ胸がきゅっと締めつけられる。
けれど――。
「……そっか。退院するんだ」
そう言って、少しだけ笑った。
「元気になって、よかった……」
言ったあとで、ほんの少しだけ違和感が残る。だけど気付かないふりをした。
だが、雄二は何か思うところがあったんだろう。
「……本当に、平気か?」
百合香の方を向いて、そう問いかけてきた。
「何が?」
百合香は、わざと軽く返す。
なのに――。
「……猫」
雄二が決定的な言葉を投げかけてくるから、知らず知らずのうちにより一層頑張ってしまう。
「もう、雄ちゃんってば気にしすぎ。……私、しろのことは覚悟できてたって言ったじゃない」
「……ああ、そうだったな……」
「だから、ね? 変に気にしないで? 平気だって思ってるのに……雄ちゃんに心配されたら、落ち込んじゃいそう」
「……すまん」
百合香がにこっと笑って見せると、雄二が謝りながらも、どこか安心したように小さく吐息を落とした。
彼が思いのほか自分のことを心配してくれていたのだと分かって、この人に心配をかけてはいけない、と百合香は一層気持ちを引き締める。
(そう。私は大丈夫、だよ……?)
そう告げることで、雄二がひとつでも背負っているものを下ろしてくれるなら、それでいい。
何より、どんなに泣きわめいたところで、可愛いしろは戻ってこない。
今さらどうしようもないことに、いちいち立ち止まってめそめそすることで、百合香が守りたい大切な人に心配をかけてしまうのは何としても避けたかった。
百合香は悲しみに浸かることも出来ないまま――、平気なふりをし続ける。
愛する雄二のために。
***
――初めて会った神田芽生という女の子は、思っていたよりもずっと小さくて……その姿は、あまりにも無防備だった。
「……あの、今日は、ありがとうございます」
ベッドの上で身体を起こしながら、ぺこりと頭を下げてくる。
熱で頬が赤くなっているのに、それでもちゃんと気を遣おうとしているのが分かって、
(ああ、この子――、相良さんに愛されてるんだな)
と思った。
「いいのいいの。気にしないで」
自然と、声が柔らかくなる。
それと同時に――まだこの部屋に、〝殿様〟と呼ばれている子猫の姿がないことに、ほんのわずかに息が抜けた。
もし今、無邪気に甘えてくるその姿を見てしまったら、張り詰めている何かが、崩れてしまいそうな気がしたからだ。
「……よかった」
何が、とは言わずに小さくつぶやく。
芽生のような子は、守られていい。
守られて、当たり前の場所にいていい子だ。
***
会話は、思っていたよりもずっと弾んだ。
下着の話。
お店の話。
そして――髪の話。
「私、百合香さんって私と同じくらい髪の長い人だと思ってました」
芽生がそう言って、ベッドの中から百合香の方を見上げてくる。