それぞれの幸せ
「そんなに申し訳なさそうにしなくても大丈夫だよ」
 そう付け加えると、雄二はほんの少しだけ眉を寄せた。


***


 雄相会(ゆうそうかい)の事務所へ着くと、既に構成員たちが外へ出て待っていた。

「百合香さん」
 名前を呼ばれ、顔を上げた百合香へ、誰からともなく頭を下げてくる。
「今日はよろしくお願いします」
「俺たちの分まで、しっかりあの人の晴れ姿、見てきてください」

 頭を下げる男たちの姿に、胸の奥がじんわりと熱くなった。

 世間からは怖がられる人たちだけれど、こうして実際に関わってみると、仲間想いの優しい一面もたくさん持っていると感じられる。

 雄二が、相良から託された彼らを大切にしたいと思う気持ちが痛いほど分かって、百合香は何度も何度も彼らに頷いてみせた。

「これ、ちゃんと相良さんに渡して、彼の幸せそうな写真、たくさん撮ってきますね」

 昨夜のうちに雄二から託されていた皆からの祝儀袋を、ぎゅっと胸元へ抱きしめながら言う。

 相良に会ったら、みんなから祝福されていることをちゃんと伝えよう。――そう思った。

 そして同時に、本来ならこの役目は雄二の正妻(おくさま)(にな)うべきものだったのではないか、と考えてしまう。

(ああ、でも……)

 彼女は、《《雄相会会長の妻だからこそ》》ここには来られないのだと気が付いて、切ない気持ちになった。

 百合香は、そのどちらでもない。

 だからこそ、ここに立てる。

 ――半端者だから、選ばれた。

 その事実が、胸の奥に重く沈んだ。


***


 会場へ向かう道中――。

 佐山が運転する車のリアシートで、百合香は窓の外をぼんやりと眺めていた。

 街は穏やかで、どこか祝福に満ちているように見える。

 運転席に座る佐山は、無言のまま車を走らせている。

 芽生に〝ぶんぶん〟なんて呼ばれて懐かれていた頃の面影が、ふと頭をよぎった。

 真面目で、誠実で。
 けれど――。
 百合香は、この男が少し苦手だった。

 理由は分かっている。

 きっと佐山は、百合香のことをよく思っていない。

 車内には、静かなエンジン音だけが流れていた。

 会場へ向かう道は混み始めているらしく、車は何度かゆっくりと減速を繰り返す。

 助手席に置かれたスマートフォンへ一瞬だけ視線を落としてから、佐山は前を向いたまま口を開いた。

「……百合香さん」
「なに?」

 百合香はルームミラー越しに佐山を見つめた。
 けれど、先に呼び掛けたくせに佐山はすぐには続けない。
 何かを迷うみたいに、ハンドルを握る指先へわずかに力が入った。それが後部シートからも見て取れて、百合香はなんとなく察してしまう。

(……ああ。これは、あまり聞きたくない話ね)

 そんな予感がした。
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