口煩いと婚約破棄されまして~今更助けてくれ?見返りに貴方のお兄様を紹介しなさい~

episode.8

「で?その騎士に言い負かされたと」
「言い負かされたんではなく、正論パンチを食らっただけですけど?」
「……同じじゃね?」

 翌日、私はアーネストの元を訪れ、事の次第を話して聞かせた。
 別に愚痴りに来たんじゃない。こんな事、前世では日常茶飯事だったし、愚痴るような事じゃない。ただ、ヴィクトル団長が責められるのはおかしいと思っただけ。

「兄上が言い負かされたのは面白くないけど、僕はその騎士の意見に同感だね」

 行儀悪く片肘をつき、シェンナ特製レモネードを音を立てながらストローで啜りながら言ってきた。

「仕事である以上、女だからと優遇される理由にはならない。兄上は優しい方だから守りたくもなるんだろうけど、周りから見たら特別扱いしてる様に見えるだろ」

 悔しいけど言い返せない。

「そうなると、批判は兄上に向かう。まあ、兄上の事だから上手く言いくるめると思うけどね」

 レモネードのおかわりを要求しながら更に付け加えてくる。

「そもそも君さぁ、兄上とどうなりたいの?仕事として側にいたいの?それとも女として傍にいたいの?」
「え?」
「それによって答えは変わってくるんじゃないか?」

 面倒くさそうに顔を顰めながら諭された。

 どうなりたいって?そりゃ、あんなに理想な人そうそういないから出来ることなら婚約したいって気持ちはある。向こうは歳が一回りも離れた小娘なんか眼中にないだろうが、私が二度目の人生を送っているように人生何が起こるか分からない。もしかしたら、突然恋に落ちるかもしれない。

 まあ、それは神のみぞ知るところ。そんな事より……

「……驚いた」
「なに?」
「……貴方、真面目な話が出来るんですね」
「はぁ!?」

 シェンナが口元を手で覆い、驚いた表情で返すと眉を顰め不機嫌顔を浮かべた。

「お前さぁ……それ、相談した相手に言う台詞?僕だって一応は侯爵家としての教育受けてるんですけど」
「いや、助言を貰えるとは思ってなかったので……正直、貴方にそこまで期待していませんでした。愚痴の捌け口ぐらいには丁度良いかと」

 バカ正直に答えると、アーネストは盛大に溜息を吐きながら肘を抱えた。

「お前なぁ……流石の僕も傷つくぞ?」
「それは申し訳ありません。傷つく心があったとは存じ上げておりませんでした」
「だからさぁ!……──ッもういい!」

 何を言っても言い返されるとでも思ったのだろう。不貞腐れながらそっぽを向いてしまった。その姿を見て「クスクス」と笑いが込み上げてくる。

「……何だ、まだ揶揄い足りないのか?」

 横目で睨みつけながら笑う私の姿を映し問いかけてくる。子供様な態度にさらに笑いが込み上げるが、これ以上は可哀想だと、口元を隠すように頭を下げた。

「いいえ。話を聞いてくれてありがとうございました」

「……ほんの少しだけ見直しましたよ」と付け加えながら礼を言った。

「少しだけは余計だ」

 照れ隠しなのか、鼻を鳴らしながら言い返されたが、その耳は真っ赤に染まっていた。



 ***



 窓際に座るヴィクトルは、雲の合間から金色の光を照らす月を眺めていた。その手には酒の入ったグラスが握られている。

 夜風が肌に纏わりついてくる。

(明日は雨だな)

 風の匂いと強さで大体の予測はできる。原始的だが、コレが結構当たる。

「……明日は来ないだろうな」

 ポツリと呟きながら思い浮かべたのは、シェンナの笑顔。

 彼女のことは当然知っていた。あのアーネストが婚約者なんて、とんだ貧乏くじを引いた令嬢がいたと哀れに思っていた。もし、彼女が耐えきれなくなった時は兄である私が力を貸そうと思っていたが、彼女は強かった。

 慈悲深く、聡明な彼女はアーネストの自堕落な生活を矯正しようと試みてくれた。
 本来ならば、両親なり使用人らが正すべき所を、自分たちよりも若い女性に責を背負わせていたなんて、恥でしかない。

 彼女が私に会いたいと言った時、てっきりアーネストに耐えられ無くなったのだと思ったが、音を上げたのはアーネストの方だと聞いた時は驚いた。それと同時に、恩を仇で返す所業に怒りで頭が沸騰したようだった。

『一族郎党血祭りに上げてやる』

 私が出来る唯一の償いだと彼女に進言した。だが、彼女はそれを望まなかった。それどころか、我々騎士の面倒まで見ると宣言してきた。

 彼女が来てから、騎士たちは目に見えて変わった。体調面もそうだが、動きが今までよりも軽やかになった。それは、私自身も感じている。体が随分と軽くなり、朝起きた時もスッキリしている。

 一人一人に向き合い話を聞き、適切な答えを出してくれる。本当に有難い事だが、どうも彼女は他人ばかりを気にして自分を犠牲にするタイプらしい。

 疲れを見せないように気を使っているようだが、目の下は隠せない。

『過保護なのどうかと思うよ?仕事だって言うなら割り切らなきゃ。この子だけ特別なんて言えないでしょ』

 カイエンの言葉が脳裏に響く。

「……過保護で特別か……」

 我々の為に時間を割く彼女を心配して何が悪い?一回りも違う彼女に変な気は起こさない。彼女の善意を無碍にはしたくない。……そう思っているのに、彼女を思うと胸がざわついて仕方ない。

「……はぁ~…参ったねこりゃ……」

 嘲ながら呟いた。
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