口煩いと婚約破棄されまして~今更助けてくれ?見返りに貴方のお兄様を紹介しなさい~
episode.9
ここ数日、長雨が続いている。つまるところ梅雨に突入したということだろう。
雨では外へ出るのも億劫になってしまいがちだが、仕事は待ってくれない。
今日も外套を羽織り、馬車に揺られて城へと向かった。
いつものように調理場へ向かうと、何やら慌ただしい。
「どうしたんですか?」
「あぁ、それが……」
側にいた調理番の人に話を聞くと、この雨で隣町を繋ぐ道が土砂で塞がれてしまい、食材が届かないらしい。
「クソッ、完全に俺のミスだ」
舌を打ちながらボヤくのは、この調理場の料理長ロッド・ティリー。口は悪いが、作る料理は繊細で丁寧。まさに逸品。
ヴィクトル団長と幼馴染みで、彼の事を一番理解している人物でもある。まあ、どちらも『腐れ縁だ』と素っ気ない態度を取っているが、仲良く話している姿を見れば信頼し合っているのがよく分かる。
「料理長、落ち着いてください」
「シェンナか。悪いな、来てもらって早々トラブルだ」
いつもの冷静な姿はなく、苛立ちながら頭を乱暴に掻いている。
「どんなことでもイレギュラーと言うものは存在します。狼狽えるのも反省するのも後回しです。まずは今を乗り切る。それだけを考えてください」
鋭い目で指摘すれば、一瞬だけ目を見開いたがすぐに表情が変わった。
「ああ、そうだな」
礼を言うように私の頭にポンと大きな手を乗せながら、料理人達に向き合った。
「残ってる食材全部持って来い!」
ロッドの一声で調理台に今使える食材が並べられた。
日持ちのする野菜類が主に並べられたが、魚や肉が全然ない。野菜類も決して多いとは言えない。これではメインが作れないとロッドが嘆いている。
(材料はこれだけか)
今から街に出て材料を調達するにも時間がいる。それに、きっと街へ出てもこの現場と同じ状況だろう。そうなると、目の前にある食材で数人分の料理を作らなければならない。
(困ったな……)
庶民用の料理ならばこの材料でも充分だが、相手が王族となるとそうもいかない。
(仕方ない。一か八か……というか、それしか手はない)
シェンナは意を決して口を開いた。
「料理長、一つだけ手があるんですが……私に任せていただけます?」
「お前に?」
「ええ、責任は私が取りますので」
ロッドの目を見ながら伝えた。
揺るぎのない真っ直ぐな瞳にロッドは「フッ」と小さく笑みをこぼした。
「お前に責任は取らせねぇよ。ここの責任者は俺だ。俺が了承したんなら罰されるのは俺の役目だ」
「でも……」
「でももクソもねぇよ。ほら、時間がねぇ。何をすればいいんだ?」
ニカッと笑いながら私の髪をくしゃくしゃに撫でられた。
***
料理長たちのおかげで何とか昼食の時間に間に合った。
「……ほお、これは……」
「本日の料理を担当させていただきましたシェンナ・ダウリングです。こちら本日の昼食、照り焼きバーガーセットとなります」
テーブルの上にはハンバーガーにフライドポテト。サラダにコンソメスープも付けて量もバランスもばっちり。肉がなかったのにどうしてハンバーガーが作れたのかと言うと、パテは肉じゃない。肉に似せた大豆だ。『大豆ミート』と言えば分かり易いと思うが、それを使用した。
時間がなく、ちゃんとした工程を踏んでいない即席ミートなので、大豆特有の臭いを消す為に照り焼き味にしてみた。
自分では上出来の仕上がりだと思っているが、食べた人が「美味い」と言わなければ意味がない。
「これはどうやって食べればいいのかしら?」
王妃様が困惑した顔で目の前のバーガーを見ていた。
「あ、そのまま手に持ってかぶりついてもらうのが一番のおすすめですが、ナイフとフォークで一口に切って食べて頂いても構いません」
王族にハンバーガーを出す時点で終わっている気がするが致し方ない。
一つ一つ彩りよく丁寧に盛り付けた高級料理もいいが、たまにはこうして大口を開けて食べる食事もいいと思う。全部私の偏見と見解なので、叱責も覚悟の上。もしかしたら手すら付けてもらえない可能性だってある。その時はその時だ。
ドキドキしながら見つめていると、国王様が手に持ち一口……それを皮切りに王妃様や王子らも口に運んでくれた。
「ん……ッ!」
「まぁ」
「うん」
「美味しい!」
口々に言葉にするのを見て、料理長と顔を見合わせホッと息を吐いた。
「食べた事のない味ですが、肉との相性がいいですね」
「あ、それは肉じゃありません」
「は?」
第一王子であるデリック・ウィンディトが感想を述べてくれたが、残念ながらそれは肉じゃないと指摘した。そこからはロッドの出番。
土砂で食材が滞り、ある材料でなんとか料理を作ったに至るまでの経緯を話して聞かせた。
「大変申し訳ありません。仕入れをミスした私の責任です。彼女は私を助けるために知恵を貸してくれただけにすぎません」
深々と頭を下げ、シェンナには責任はないと訴えるロッド。同じようにシェンナも頭を下げる。
「頭を上げろ。何も罰するとはいっておらんだろう」
陛下の言葉に頭を上げると、全員が笑顔で私達を見つめていた。
「これが大豆とは驚きだわ……」
「ええ、まんまと騙されました」
「これ、すっごい美味しいよ!」
「こんなに楽しい食事は久しぶりだ」
陛下らの言葉を聞いて胸に込み上げてくるものがあった。
「シェンナのおかげだな。ありがとう」
「いえいえ。私だけじゃここまで皆さんを笑顔に出来ませんでした。料理長たちがいたから、みんなが笑顔になれたんですよ」
「ふっ、そうだな」
顔を見合わせてお互いに微笑んだ。
雨では外へ出るのも億劫になってしまいがちだが、仕事は待ってくれない。
今日も外套を羽織り、馬車に揺られて城へと向かった。
いつものように調理場へ向かうと、何やら慌ただしい。
「どうしたんですか?」
「あぁ、それが……」
側にいた調理番の人に話を聞くと、この雨で隣町を繋ぐ道が土砂で塞がれてしまい、食材が届かないらしい。
「クソッ、完全に俺のミスだ」
舌を打ちながらボヤくのは、この調理場の料理長ロッド・ティリー。口は悪いが、作る料理は繊細で丁寧。まさに逸品。
ヴィクトル団長と幼馴染みで、彼の事を一番理解している人物でもある。まあ、どちらも『腐れ縁だ』と素っ気ない態度を取っているが、仲良く話している姿を見れば信頼し合っているのがよく分かる。
「料理長、落ち着いてください」
「シェンナか。悪いな、来てもらって早々トラブルだ」
いつもの冷静な姿はなく、苛立ちながら頭を乱暴に掻いている。
「どんなことでもイレギュラーと言うものは存在します。狼狽えるのも反省するのも後回しです。まずは今を乗り切る。それだけを考えてください」
鋭い目で指摘すれば、一瞬だけ目を見開いたがすぐに表情が変わった。
「ああ、そうだな」
礼を言うように私の頭にポンと大きな手を乗せながら、料理人達に向き合った。
「残ってる食材全部持って来い!」
ロッドの一声で調理台に今使える食材が並べられた。
日持ちのする野菜類が主に並べられたが、魚や肉が全然ない。野菜類も決して多いとは言えない。これではメインが作れないとロッドが嘆いている。
(材料はこれだけか)
今から街に出て材料を調達するにも時間がいる。それに、きっと街へ出てもこの現場と同じ状況だろう。そうなると、目の前にある食材で数人分の料理を作らなければならない。
(困ったな……)
庶民用の料理ならばこの材料でも充分だが、相手が王族となるとそうもいかない。
(仕方ない。一か八か……というか、それしか手はない)
シェンナは意を決して口を開いた。
「料理長、一つだけ手があるんですが……私に任せていただけます?」
「お前に?」
「ええ、責任は私が取りますので」
ロッドの目を見ながら伝えた。
揺るぎのない真っ直ぐな瞳にロッドは「フッ」と小さく笑みをこぼした。
「お前に責任は取らせねぇよ。ここの責任者は俺だ。俺が了承したんなら罰されるのは俺の役目だ」
「でも……」
「でももクソもねぇよ。ほら、時間がねぇ。何をすればいいんだ?」
ニカッと笑いながら私の髪をくしゃくしゃに撫でられた。
***
料理長たちのおかげで何とか昼食の時間に間に合った。
「……ほお、これは……」
「本日の料理を担当させていただきましたシェンナ・ダウリングです。こちら本日の昼食、照り焼きバーガーセットとなります」
テーブルの上にはハンバーガーにフライドポテト。サラダにコンソメスープも付けて量もバランスもばっちり。肉がなかったのにどうしてハンバーガーが作れたのかと言うと、パテは肉じゃない。肉に似せた大豆だ。『大豆ミート』と言えば分かり易いと思うが、それを使用した。
時間がなく、ちゃんとした工程を踏んでいない即席ミートなので、大豆特有の臭いを消す為に照り焼き味にしてみた。
自分では上出来の仕上がりだと思っているが、食べた人が「美味い」と言わなければ意味がない。
「これはどうやって食べればいいのかしら?」
王妃様が困惑した顔で目の前のバーガーを見ていた。
「あ、そのまま手に持ってかぶりついてもらうのが一番のおすすめですが、ナイフとフォークで一口に切って食べて頂いても構いません」
王族にハンバーガーを出す時点で終わっている気がするが致し方ない。
一つ一つ彩りよく丁寧に盛り付けた高級料理もいいが、たまにはこうして大口を開けて食べる食事もいいと思う。全部私の偏見と見解なので、叱責も覚悟の上。もしかしたら手すら付けてもらえない可能性だってある。その時はその時だ。
ドキドキしながら見つめていると、国王様が手に持ち一口……それを皮切りに王妃様や王子らも口に運んでくれた。
「ん……ッ!」
「まぁ」
「うん」
「美味しい!」
口々に言葉にするのを見て、料理長と顔を見合わせホッと息を吐いた。
「食べた事のない味ですが、肉との相性がいいですね」
「あ、それは肉じゃありません」
「は?」
第一王子であるデリック・ウィンディトが感想を述べてくれたが、残念ながらそれは肉じゃないと指摘した。そこからはロッドの出番。
土砂で食材が滞り、ある材料でなんとか料理を作ったに至るまでの経緯を話して聞かせた。
「大変申し訳ありません。仕入れをミスした私の責任です。彼女は私を助けるために知恵を貸してくれただけにすぎません」
深々と頭を下げ、シェンナには責任はないと訴えるロッド。同じようにシェンナも頭を下げる。
「頭を上げろ。何も罰するとはいっておらんだろう」
陛下の言葉に頭を上げると、全員が笑顔で私達を見つめていた。
「これが大豆とは驚きだわ……」
「ええ、まんまと騙されました」
「これ、すっごい美味しいよ!」
「こんなに楽しい食事は久しぶりだ」
陛下らの言葉を聞いて胸に込み上げてくるものがあった。
「シェンナのおかげだな。ありがとう」
「いえいえ。私だけじゃここまで皆さんを笑顔に出来ませんでした。料理長たちがいたから、みんなが笑顔になれたんですよ」
「ふっ、そうだな」
顔を見合わせてお互いに微笑んだ。