最愛の灯を吹き消す頃に。
プロローグ
「このおじさん、死ぬの?」

八歳だった。
小学二年生に進級したばかりの春。

その日の夕食はお母さんが作ってくれた大好きなハンバーグ。
添え付けの人参グラッセもちゃんと食べなさいって私を嗜めるお父さんの声を遮った。

テレビのバラエティ番組を見ながら、スタジオの笑い声に釣られるように我が家も笑顔に包まれていた一家団欒が、
私の言葉で凍りつく。

箸で大ぶりに切り分けたハンバーグを口いっぱいに頬張っていた二つ上のお兄ちゃんは目を丸くした。

新凪(にいな)!滅多なこと言うんじゃありません!」

湯呑みに緑茶を注ぎ足してくれていたお母さんが厳しい声で私を叱る。

「どうしたんだよ」

不思議そうに私を見ているお兄ちゃんに答えることができないまま私は俯いた。

どうしてそんなこと言っちゃったんだろう。
考えるよりも先に口をついて出た言葉。
自分でもよく分からなかった。

でもこのおじさんの心臓、すごく弱ってそうに見えたから。

ふぅって息を吹きかけるだけで消えちゃいそうに見えたから。

お誕生日のケーキに飾ってもらえるロウソクよりも、もっともっとちっちゃい()が。
ちりちりとおじさんの心臓で僅かに揺れる。

黄色い灯。
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