最愛の灯を吹き消す頃に。
「証拠も何も、目の前で母さんに突きつけられたようなもんだから」

「ちーくん、どういうこと?」

「…今朝、エマをお友達の家に送っていったんだ。帰宅した時だよ。ボロボロに叩き割られたパソコンがベッドの上に転がってた」

「お母さんのことは問い詰めたの?」

「外出するまでは触ってたからね。どういうことって訊いたよ。中身を見たらしいんだ。俺、小説かネットで資料検索する以外は使ってないから。小説のフォルダもモロバレだよね。毎日コソコソ何やってんのかと思ったらこんなくだらないこと、って鼻で笑われたよ」

「酷い…。データは!?どこにも残ってないの?」

「俺もばかだよなぁ。スマホと同期してれば良かったのに。USBに保存してるしって安心しちゃってたなぁ」

「そのUSBは!?」

「母さんはね、徹底してるんだ。そういうとこ、変に頭がキレるんだよ」

「息子にそこまでするなんて異常だよ!」

「人や物をサンドバッグにしてストレス発散しちゃうって話、たまにあるでしょ」

「うん」

「それと同じ。俺のことが気に入らないから俺の大切な物をめちゃくちゃにして優越感に浸るんだ。俺が悲しそうにすればするだけ、余計にね」

「なんで仕返ししないの。しようよ。もういいじゃん。ちーくんができないのなら私がやる」

「ニーナ!」

立ち上がった私の手首を強く掴まれる。
爪が食い込んでキリキリと痛む。
その力があればお母さんなんて簡単にやっつけることができるのに。

「なんで止めるの」

「それでも母親なんだ」

「だから何もできないのはあまりにも苦し過ぎるよ。お母さんは何をしても良くて、ちーくんは許されないの?」

「命を与えてくれた人に酷いことはできない」

「ちーくんが死にそうなんだよ!」

「ニーナ」

「分かってる!?言ったじゃん。ちーくんの命はあなた次第なんだって!本当に死のうと思ってるでしょ?私には見えてるんだって言ってんじゃん…。どんなに憎い瞬間があっても酷いことができない。そんな感情が繰り返されるくらいなら自分が消えたほうが早いじゃんって思ってるでしょ」

「やっぱニーナは凄いや。なんでもお見通し」

へらっと笑ったちーくんの表情が、またーつずつ私の心臓を壊していく。
こんなにも悲しい笑顔を生まれて初めて見た。

「私にだって分かるよ。自分だけが家族じゃなくなったみたいで。惨めでさ…。自分がなんのためにこの力を持って産まれたのかも分からなかった。ただ目の前を通り過ぎていく死が怖かった」
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