最愛の灯を吹き消す頃に。
「俺を傷つける理由なんてなんだっていいんだ。小説自体を特別何か思ってるわけじゃない。何かを形にしようとしているのなら壊したい、俺が困ることならなんだっていい。それを壊すための理由もこじつけだって分かってるよ」

「なんでちーくんが対象になってあげなきゃいけないの。お母さんは大人で、母親で、ちーくんに大事なことを教えなきゃいけない立場なのに」

「大人になったから全員が正しく大人になれるわけでも、親になれるわけでもないみたい。分かんないけどね」

「小説はもう戻せないの」

「難しいね。なんとなく同じ形になら戻せても、一度生まれた言葉や表現が消えてしまったら同じ鮮度では取り戻せない。人間の記憶なんていい加減だからね。最高だと思ってたページがちょっとだけ納得いかなくなっちゃうって感じかな」

「ちーくんが書いてたもの、少しも読んでないから全然分かんないけど…もう一度一緒に頑張ろうよ。私は見守ることしかできないけど親友くんだってきっとまた協力してくれるよ」

「俺、思ったんだよね」

「何を」

「やっぱ作家になるなんて俺には無理なんだよ」

「なんでそんなこと言うの」

「作家になったらこんなこと、きっと比でもないよ。作ってたものが消えちゃったとか、どれだけ血反吐はいて書き上げたって全然だめだって、自分でボツにしたくなることだってあるかもしれない。いや、最高傑作だって思っても誰にも受け入れられないこともあるだろ。こんなことで落ちてる俺がそんな世界で生きてけるわけないよ」

「じゃあやめれば」

「だからやめるって…」

「じゃあ、じゃあさ…」

「何」

「じゃあなんで死ぬの!」
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