最低シンデレラ〜元カレ公爵様の唯一らしい〜
序 むかしむかし

序章1 御伽話

──酒。賭博。女。

 戦地で「彼」が娯楽にしたのは女だった。セックスだった。

 エミリーはそんな彼の「女」でセックスの相手。セフレだった。

 まあ、孤児だったし。彼の直属の部下だったし。彼のそばにはめぼしい女もいなかったし。彼は顔が良かったし。彼は伽が上手かったし。つまり、まんざらでもなかったし。エミリーは、そうはなから諦めてしまって、彼に身体を委ねていた。理由という名の自分を麻痺させる言い訳なら、いくらでも挙げられた。

──エミリー、愛しているよ。

 行為のとき、彼はよくそんなふうに調子のいいことを言っていた。心にもなかったことだろうに。

 きっと、女を繋ぎ止めるだけの、嘘。都合のいい相手を縛りつけておくだけの、鉄鎖。

 まったくもって自分勝手な男だった。でも、そんな虚構を耳元で甘ったるく囁かれるのは嫌いではなかった。嫌いではない自分に嫌悪感を抱いていた。

 やはり自分は都合のいいセフレ。そう言い聞かされているようで。睦言が説教になってしまっては、途端に萎えるものだ。それでも、彼の声を聞いている瞬間だけは、戦地での様々を忘れられた。

 エミリーは朝食を抜いた。抜かざるをえなかった。食費がかさむからだ。ろくに食物の入っていない腹には、閑古鳥が鳴いているし、腹の虫そのものも、ぐうと鳴いているし。窓の外のカラスは嘲笑うように鳴いていることだし。
< 1 / 21 >

この作品をシェア

pagetop