エリート救命医と身代わり花嫁の再会愛。
「すみません。気づかなかっただけです」
「……悠南、お前に確認したいことがある」
伯父が、珍しく少し間を置いた。
その間が逆に怖かった。伯父が何かを考えている。
「榛名の者が、最近外部の弁護士と接触しているという情報が入った。お前、何か余計なことを話したんじゃないだろうな」
心臓が跳ね上がった。気づかれている。
でも、どこまで知っているのか不明だ。
私はその一瞬で、答えを決めた。
「何も話していません。私は麗として、榛名家にいるだけです」
声が震えないように、ぎゅっと手の甲をつねる。すると、航大くんの手が私の手をさらに強く握った。
その温もりだけを頼りに、私は伯父の声を正面から受け止めた。
逃げない。
私は、ここで逃げない。
「そうか。……ならいい。だが念のため言っておく。もし榛名家の人間に何か漏らしたと判明した場合は、約束通りの措置を取る。クリニックの件も、お前の父親の件も、すべてだ。わかっているな」
「……わかっています」
「五日以内に、榛名の父親との食事の場を設けろ。麗として、榛名家との関係をさらに深めてもらう必要がある。それだけだ」
一方的に電話が切れた。
私はスマートフォンを下ろし、しばらく動けなかった。手が、微かに震えていた。
胸の奥で何かがざわざわしている。伯父の声は消えたのに、耳の奥にまだ残っている気がした。
『五日以内』という言葉が、頭の中でぐるぐると回る。
でも——伯父は焦っている。それだけは、確かに感じた。あの声は、いつもの余裕のある冷たさじゃなかった。何かに追い詰められている人の、硬さだった。