エリート救命医と身代わり花嫁の再会愛。
私は息を呑んだ。
「どういうこと……?」
「麗の身の回りの世話をしている現地スタッフに凛太郎くんの知り合いが接触した。伝手の人間に話したらしい。麗は最初、日本に戻りたいと言っていたらしい。なんせ、生粋のお嬢様だった彼女が甘やかしてもらえないわがままも通らない土地で暮らしていけるわけがない。だが院長はわがままばかりの彼女を思うように動かせなくて苛立っていた。それで彼女を海外に出したのだろうと彼はいっていたよ。パスポートを預けさせられていて、自由に動けない状態だと」
部屋の空気が、静かに変わった気がした。
パスポートを預けさせられている。それがどういうことか、すぐにわかった。逃げられない。帰れない。自分の意志では、どこにも行けない状態ということだ。
「……麗も、囚われてるの?」
「そういった可能性がある。まだ確認中だが」
航大くんは私の手をそっと握った。
「それから、もう一つ。凛太郎くんが現地スタッフから聞いた話だと——麗は婚約してからしばらくして、俺のことを怖がっていたらしい」
私は、思わず顔を上げた。
「……怖がってた?」
「ああ。スタッフが言うには、麗は『思っていた人と違った』と漏らしていたらしい。笑わない、優しくない、と」
その言葉が、静かに胸の中に落ちた。
——そうか。麗は、本当の航大くんを知らなかったのだ。
私と一緒にいた時の航大くんを見て、家柄も、顔も、人柄も全部羨ましくなってそれで結婚したいと言ったのかもしれない。でも実際に婚約してみたら、私と一緒にいる時の柔らかさは、もうそこにはなかった。
麗に向けていた怒りが、少し形を変えた気がした。怒りが消えたわけじゃない。でも、麗も、何かを誤解したまま踏み込んで、引き返せなくなったのかもしれない、という気がして。