エリート救命医と身代わり花嫁の再会愛。
「麗が結婚したいと言い出したのは、自分からだったんだろうな。でも、実際に婚約してみて、想像と違った。それでも言い出せなくてそれで家出という形になったんだと、凛太郎くんは見ている」
「……そう、なんだ」
私はしばらく、黙っていた。
麗が私に劣等感を抱いていたことは、薄々感じていた。仕事の話をするたびに、どこかつまらなそうな顔をしていた。直接何か言われたわけじゃないけれど、視線の端に、何か刺のようなものが混じっていることがあった。
だから航大くんを欲しがったのだとしたら——その動機は理解できなくはない。でも、それでも私を巻き込んでいいわけじゃない。
「私は……麗のこと、まだ怒ってる」
正直にそう言うと、航大くんが静かに頷いた。
「当然だよ」
「でも、少しだけ麗も追い詰められてたのかなって、思った」
「両方あっていいんだよ。怒りも、理解も」
その言葉が、どちらかだけじゃなくていい。怒ったまま、少し理解しても、いい……?
「……麗は、私が身代わりになったこと、知ってたのかな」
「そこはまだわからない。パスポートを取り上げられていたなら、情報を遮断されていた可能性もある。凛太郎くんが引き続き確認してくれている」
航大くんの声は穏やかだったが、目の奥には静かな怒りが灯っていた。麗への怒りじゃない。伯父への怒りだ。
私たちも、二人まとめて自分の計画の駒として使った、あの冷たい計算への。