エリート救命医と身代わり花嫁の再会愛。


 【悠南へ。麗です】


 名前に手が、微かに震えた。

 航大くんが「どうした?」と覗き込んできた。画面を見せると、彼も少し目を見開いた。


「……凛太郎くんが、連絡経路を作ってくれたんだろう。読んでみればいい」


 私は深く息を吸って、メッセージを開いた。画面をスクロールする指が、少し重かった気がしたけど気にしないようにして目を一度閉じて読み始めた。




 【悠南へ。麗です】


 【こんな形で連絡することになって、ごめんなさい。何から話せばいいのか、ずっと考えていたけれど、うまくまとまらないまま書いています。それでも、書かなければいけないと思いました。

 あなたが私として悠南を彼と結婚させたこと、私は知らなかった。本当に知りませんでした。パパから悠南に頼んだと伝えられたのは、私がパリに来てしばらく経ってから。その時にはもう、私には何もできなかった。パパにパスポートも、スマホも、全部取り上げられていたから。】


 【榛名さんのことを、あなたから奪いたかった。そういう気持ちがあった。あなたは優等生で仕事ができて、周りから頼りにされて、榛名さんとも幸せそうで——私はそれが、ずっと悔しかった。子どもの頃からずっと。あなたと比べられるたびに、胸の中に何か固いものが積み上がっていくような気がしていた。

 だから、あなたの隣で笑っている彼を欲しいと思った。それが、正直なところ。前から私が声をかければみんな私を好きになった。だから今回もうまく行くって信じてたの。
 でも、婚約してみたら榛名さんは全然違った。あなたといる時の顔と私といる時の顔が、まるで別人だった。あんなに優しく笑っていたのに笑わなかった。笑ってくれなかった。優しくもなかった。私を見る目が、どこか遠くてまるで、私を見ているんじゃなくて、私の向こうにいる誰かを見ているみたいだった。】

 
 【でも、そこでやっと気づいた。榛名さんが好きだったのは、本当にあなただったんだって。私が奪えるようなものは、最初から何もなかったんだって。】


 【それでも言い出せなかった。パパとママに榛名さんと結婚したいって自分で言ったから。今までも私が欲しいって言ったのは手に入った。失敗したって、認めたくなかった。怖かった。】


【だから、逃げたの。あなたを巻き込むことになるとわかっていてもあの時の私には、逃げることしかできなかった。情けないけれど、本当のことだから、ちゃんと書く。

 ごめんなさい。

 あなたが怒っているなら、当然だと思う。許してほしいとは言えない。それだけのことをしたと、わかっている。ただ、謝りたかった。それだけ。】


【榛名さんのそばにいるあなたは、きっと今、幸せでしょう。榛名さんにとってもあなたがいるなら幸せだと思う。私が奪えなくてよかったと、今は思っています。

 本当にごめんなさい。

 麗より』



 読み終えた時、部屋がひどく静かだった。

 私はしばらく、スマートフォンを膝の上に置いたまま、動けなかった。麗は知らなかった。身代わりのことを、知らなかった。それだけは、本当だったのだ。




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