従姉の代わりに結婚したら、救急医(元カレ)の執愛に捕まりました。



 隣にいる父は両膝にある拳は震えており私のために怒ってくれているのがわかる。
 愛する人と別れ、看護師の仕事を辞めた時……あの日の絶望。

 あの日、退職した日。全てを断ち切って逃げるようにこの実家に戻ってきた。
 それを強いた張本人が、今また土足で私の人生に踏み込み、支配しようとしている。

 しかし、伯父は顔色ひとつ変えず、一枚の便箋をテーブルに置いた。
 そこには、従姉である麗の奔放な綺麗とはいえない筆跡が躍っていた。



【彼は仕事ばかりで私を見てくれない。笑ってもくれない。優しさのかけらもない。愛してくれない冷たい彼となんて結婚できない。探さないでください】


 文字を追い、読み終わると私はそれは仕方がないことだとすぐに頭で言葉が出た。
 医者なのだから忙しい。しかも救命救急で働いているのだから、患者の容態次第で呼び出しもある。
 医者の家系なのにわからないだろうか?

 それに、彼は真面目で勉強家だ。さまざまな分野の症例を学ぶためにいろいろな学会に出向き、患者のために自ら学びに行っていたりしていた。
 そんな彼のことが私はとても尊敬していたのだ。現在の自分に満足せず、いつかの患者様のためになるようにと前を見ていてなんて素晴らしいお医者様なんだと思ったくらいなのに。

 だけど、そうか……あの子は病院はおろか外で働いていたことがない。所謂、箱入り娘だ。

 お嬢様で自分中心に回っている麗からしたら彼はつまらないかもしれない。
 でも、航大くんが笑わないってどういうことだろうか?私といるときは、いつも笑顔で優しかったのに……冷たいなんて真逆の人なのに。



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