エリート救命医と身代わり花嫁の再会愛。
声は平静に保ち感情を乗せずにただ、事実を並べる。
湊生が顔を上げた。目の中に、初めて焦りが見えた。
「待て。これは……話し合いの余地が——」
「ありません。あるわけがない」
俺は静かに遮った。
「最後まで読んでください」
「……っ……」
「あなたがこれまでやってきたことは、すべて記録されています。これ以上、悠南やクリニックに手を出すことはできない。関係会社の業務も、あなたの大好きな友人たちの会社も近いうちに停止になるか差し押さえとなるでしょう」
湊生が口を開こうとする。何か言おうとして、でも言葉が出てこなかった。
手の中の資料が、全部を物語っていたから。言葉で覆せるものが、何もなかったから。
長い沈黙が続いた。BGMだけが、ひどく場違いに流れていた。
俺は、この沈黙を急かさなかった。全部受け取れ、と思いながらただ待った。この男が積み上げてきたものが、今この瞬間に全部返ってくる。それを、ちゃんと時間をかけて受け取らせたかった。
やがて湊生が、絞り出すように言った。
「……弁護士と、相談する」
それだけだった。反論も、脅しも、言い訳も、何もなかった。
あれだけ人を動かし、計算し、俺たちを駒として扱ってきた男が——たったそれだけしか言えなかった。