エリート救命医と身代わり花嫁の再会愛。
それから海に行くことになり急いで準備をして車に乗った。
助手席で、航大くんの運転する横顔を見ていた。信号で止まるたびに、窓の外を見ている横顔。この人の横顔が前から好きだ。
窓の外に、少しずつ景色が変わっていく。都会のビルが緑になって、田んぼになってやがて遠くに海が見えてきた。
「海、見えた」
「うん」
「きれい」
「まだ遠いよ」
そんな他愛ない会話をしながら、車は走った。他愛ない会話が、こんなに楽しかったこと忘れちゃってたな。ただそれだけのことが、じんわりと温かくなる。
小さな浜辺に着いた時、思ったより人が少なかった。秋の風が少し冷たい日曜日。
駐車場に車を停めて、二人で砂浜に向かって歩いた。砂の感触が靴越しに伝わってくる。波の音が、少しずつ大きくなる。
砂浜に降りた瞬間、海風が吹いてきた。髪が揺れて、上着の裾がはためいた。目の前に、広い海がある。
「すごい……!」
思わずそう声が漏れた。
航大くんが、隣に立った。そして、私の手を握った。大きくて、温かい手。もう、どこにも行かない手。
二人で歩いた。本物の名前で、本物の私で。麗じゃなくて、嘘でもなくて——ただ、悠南として、航大くんの隣を歩いた。波の音が、ずっと続いている。