エリート救命医と身代わり花嫁の再会愛。
「どう?」
「……気持ちいいね、来てよかった」
航大くんが、少し目を細めた。
海風が髪を揺らした。少し伸びてきた髪が、風に流れる。あの日、無理やり切られた髪が、少しずつ戻ってきている。
まだ短いけれど、確かに伸びている。自分の髪が、自分の手元に戻ってくる感覚が、じわりと嬉しかった。
「髪、伸びてきたな」
「うん。もう少ししたら、また長くなると思う」
「俺は、短くても長くてもどっちも好きだよ」
航大くんがさらっと言うから、また頬が熱くなる。この人は本当に、こういうことを自然に言う。
波打ち際で立ち止まって、二人で海を見た。水平線が、どこまでも続いている。空と海の境目が、どこまで行っても終わらないみたいで、なんだか笑えてくるくらい広かった。遠くで船が一隻、ゆっくりと動いていた。
しばらく、何も言わずに立っていた。波が来て、引いて、また来る。繰り返しの音が、ずっと続いている。
「ねえ、航大くん」
「ん?」
「私、幸せだよ」
言ってから、少し恥ずかしくなった。唐突すぎたかもしれない。でも、本当のことだから、言いたかった。言わないでいるには、あまりにも胸がいっぱいだったから。
航大くんが、私の方を向いた。少し驚いたような顔をして、それからゆっくりと、微笑んだ。
「俺も」
そして、額に唇を当てた。潮風の中で、静かなキス。波の音が、遠くで続いていた。
それから、耳元で航大くんは小さく囁いた。
「愛してる」
潮風の音に、ほとんど消えそうな声だった。でも、ちゃんと聞こえて頬が熱くなった。耳まで熱い。航大くんが、私の顔を見てかすかに笑った。
「……っ、そういうこと、急に言わないで」
「なんで」
「びっくりするから」
「慣れてくれ」
さらっと言うから、また言葉に詰まった。慣れてくれ、って——この人は本当に。
「……私も、愛してる」
小さく言い返すと、航大くんが目を細めた。それから今度は、ちゃんとした口づけをくれた。キスが終わってから、また二人で海を見た。
「これから、どうなるんだろうね」
私が言うと、航大くんが少し考えてから答えた。
「どうにでもなるよ。悠南と一緒なら」
「……それ、答えになってない」
「答えになってる」
言い張るから、笑ってしまった。
波が足元まで来て、靴を濡らしそうになって、二人で慌てて後ろに下がった。それで、また笑った。他愛ないことで笑える。怖くて泣いていた日があったのに、今は波に慌てて笑っている。それが、何より幸せだと思った。