従姉の代わりに結婚したら、救急医(元カレ)の執愛に捕まりました。
「これはどういうことか、きちんと説明していただきたい! なぜ、当日になって花嫁が違うんだ!」
航大の父親が、激昂のあまり机を強く叩いた。その衝撃でペン立てが激しく揺れ、部屋に響く。それに対し、伯父は顔色一つ変えずに、吐き気を催すような巧みな嘘を、平然と並べ立てた。
「悠南は私の姪です……実は、彼女が航大さんをどうしても諦めきれず、麗を精神的に追い詰め、婚約破棄を迫ったのです。麗は大きなショックを受けて寝込んでしまい、現在は療養中です。責任を感じた悠南が、自ら身代わりとして嫁ぐと申し出てくれましてな」
伯父は私を“親戚の男を略奪した卑劣で浅ましい女”に、完璧に仕立て上げた。
航大の両親から向けられる視線は、ゴミでも見るかのような、冷たく蔑むものだった。
投げつけられる毒矢のような視線の一つ一つが、胸に深く突き刺さる。私はただ、無言のまま背筋を伸ばしそれらを耐え続けた。ここに私の味方は一人もいない。
私の尊厳なんてない。今この瞬間、徹底的に足蹴にされ踏みにじられて消えていくのだと、冷たく悟った。 喉が詰まり、涙が込み上げそうになるのを、必死で飲み込む。
しかし、事態はもう完全に引き返せないところまで来ていた。大々的に披露宴まで済ませてしまった今、榛名家にとって「花嫁がいなくなった」というスキャンダルは、社会的な死を意味する大きな汚点となる。
差し出された婚姻届に、私たちは事務的で無感情な動作で名前を書いた。震える指先で記した「榛名 悠南」という文字が、まるで一生消えない呪いの印のように、紙の上に重く残った。
「あなたを榛名家の嫁として認めるつもりなどない。家に泥を塗るような振る舞いだけは、絶対にするな」
航大の父親は、冷たく吐き捨てるように言い残し、苛立った様子で退室した。伯父も、私を一瞥することなく、満足げな表情で部屋を後にした。
静まり返った会議室に、二人きりになった途端、突然酸素が薄くなったような錯覚に襲われた。部屋の空気が重く、息苦しい。
「……悠南。どういうことだ。本当のことを、全部話せ」
航大の声は、怒りよりも深い悲痛さと、抑えきれない痛みが強く滲んでいた。彼は、伯父の作り上げた嘘など、最初から信じていない。
私を本当に愛してくれていた彼だからこそ、その真っ直ぐで熱い眼差しが、私の心をずたずたに切り裂いていく。 胸が痛い。
愛しい人の前で、こんなにも嘘をつかなくてはならない自分が、たまらなく憎らしい。
私はたまらず、ワンピースの袖口を指が白くなるほど強く握りしめ、視線を床の冷たいタイルに落とした。涙がこぼれそうになるのを、歯を食いしばって堪える。