従姉の代わりに結婚したら、救急医(元カレ)の執愛に捕まりました。
第4話 新居


 式場の喧騒と神聖な教会から遠ざかるにつれ、現実が戻ってくるようだった。
 私は
航大くんの車——高級セダンの助手席に体を預けると、車内には手入れの行き届いた本革の柔らかな香りを胸に外を見る。窓からは教会からは遠ざかり、段々と住宅地が見えてくる。

 そして彼が前と変わらずシトラス系の爽やかなフレグランスが、静かに漂っていた。
交際していたあの頃も何度か彼の車に乗せてもらっていただけど、それなのに今はまるで他人の場所のように感じられる。
 ここには麗も座ったのだろうかと思えば思うほどなんだか嫌だなって思ってしまう。

 私は爪が肌に食い込むくらい強い力で膝の上で指先を固く組み直した。
 元々彼は、医療メーカーの御曹司のはずなのに自分で運転する必要はないはずだ。なのに航大くんはいつも「自分の運転で君を隣に乗せたいから」と、少し照れくさそうに笑ってハンドルを握っていた。

 そんな甘くて温かな記憶が、堰を切ったように胸の奥を激しく押し流していく。
 もう楽しい思い出は思い出してはいけないはずなのに、忘れられない。
 


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