エリート救命医と身代わり花嫁の再会愛。
「えっ、私運びますよ?」
「全部やらせてしまったんだから、俺が運ぶよ」
テーブルにトレーを置くと二人で並んでソファに腰を下ろした。温かいミルクティーを静かに啜る。
少し気まずいけれどどこか懐かしい沈黙が、部屋を包んだ。 こんな最悪な形で夫婦になってしまったのに、私はまだこの人の隣にいることに、危険なほど安らぎを覚えてしまう。
私は裏切り者を演じなければならないのに、心がどうしてもそれを拒絶している。そんな矛盾した思いに、胸の奥が苦く締め付けられた。すると急に航大くんは立ち上がりどこかに行ってしまった。
「……とりあえず、カードキーを渡しておくよ」
航大くん戻ってくると、一枚のカードキーをテーブルの上に置いた。お礼を言ってそれを受け取ろうとした瞬間、指先がほんの少し触れ合い、私は慌てて手を引いた。触れた部分が、熱く火照る。
「あ、ありがとうございますっでも私が持っていて大丈夫なんでしょうか?」
「もちろんだよ。俺は知っていると思うけど、仕事が不規則で中々出かけることができないだろうから。仕事の間、どこか出かけたいって思うかもしれないからね。それにここのマンションはジムとかプールとかあるんだ。それにコンビニもあるからね、行きたい場所に行けるように」
「そうなんですね……ありがとうございます」
「俺は君をここに閉じ込めていたいわけじゃないんだ。だから、自由に使って」
そう航大くんは言うと残りのミルクティーに口をつけた。飲み終わると時計を見た。
「今からどうしようか……まだ時間も早いし、今日は外で食べよう。近くに、インドで修行を積んだ店主がやってる絶品のカレー屋さんがあるんだ」