従姉の代わりに結婚したら、救急医(元カレ)の執愛に捕まりました。
第5話 初めての朝
柔らかな光の射す方へゆっくりと浮上するように、私は目を覚ました。まぶたの裏側に残る眠りの重さを振り払うと、肌に触れるシーツの感触があまりにも滑らかで吸い付くような上質なコットンの心地よさに、一瞬自分がどこにいるのか分からなくなった。
実家ではあるわけないし、楪家ではない。あの使い古した木綿の匂いとはまるで違う……清潔な石鹸と微かなシトラスの爽やかな香りが、優しく鼻をくすぐっている。
これは、知ってる香りだ……
「……ん……」
重い瞼をゆっくりと開けると、そこは昨日案内された時に広さと豪華さに圧倒されたあの寝室だった。
その寝室にあるキングサイズのとても大きなベッドに、一人で寝ている。 でも、確か昨夜は……呼び出しで病院に向かった航大くんの帰りを待ろうと、リビングのソファで膝を抱えて小さく丸まっていたはずなのに。
どうして私は、今ここで眠っているのだろう。
混乱する頭で辺りを見渡すと、サイドテーブルの上に一枚の付箋があるのが分かりそれを見る。
端正で迷いのない綺麗で懐かしさもある文字でまるでお手本のように書かれたメモが置いてあった。
【遠慮しないでちゃんと寝室を使って。俺はリビングのソファで寝るから。 航大】
その温かみのある文字を見つめた瞬間、胸の奥がキュッと締め付けられる。 彼が運んでくれたのだ。結婚式後の仕事で疲れ果てて帰宅したはずなのに、眠っている私をこの場所まで連れてきてくれたのだろうか……想像しただけで、頰が熱くなる。
身体が熱る……心臓の音がうるさい。
私はシーツの端を、指先でそっと撫でた。しばらくの間、そこから動けなかった。
この優しさを受け取る資格はないのに、心は素直に喜んでしまっている自分がたまらなく憎らしい。罪悪感と甘い安堵が、胸の中で複雑に絡み合っていた。