従姉の代わりに結婚したら、救急医(元カレ)の執愛に捕まりました。



「……ねぇ、航大くん。私、今日からどうすればいいんでしょうか?」


 昨日から喉の奥にずっと仕えていた一番の不安を、ようやく問いかけた。
彼はティーカップを口に運ぶ手をぴたりと止め、静かに私を見た。




「とりあえずは、生活に必要なものは今日買いに行こうか。クローゼットには何も入っていないだろうし、食器も後から買う予定だったんだ。だから一緒に行こう」

「えっ、でも。今日は、お仕事は……?」

「俺は今日は午後から回診があるけど、午前中は休みにした」


 不意に、彼が私を呼んだ。
心臓が大きく跳ね上がる。
 航大くんはテーブルから立ち上がると私に近づいて手をそっと、けれど確かな力で覆った。大きくて清潔でひどくあったかい。

 その感触が触れた瞬間、二年前の幸せだった記憶が、鮮明で切なく蘇った。あの頃のように、彼の手に包まれるだけで、世界が優しくなるような錯覚に陥る。


「……俺と君は、もう法的な夫婦だ。この家で、これから二人で暮らしていくことになる」


 航大くんの声は低く私の心の奥底を見透かすような、確かな響きを帯びていた。


「院長に何を言われたのか、お前が何を隠しているのか……今の俺にはまだ、正確なところは分からない。でも、どんな事情があろうと、俺はもうお前を逃すつもりはないんだ……覚悟しておけ」


 突き放すような厳しい言葉とは裏腹に、私を見つめる瞳には隠しきれないほどの深い愛着があった。燃えるような情熱が揺れていた。


 拒絶しなければいけないのに、彼に触れられた場所から熱が全身にじんわりと広がる。


「……は、い」


 素直に頷いた私に航大くんは満足げに、けれどどこか切なさを孕んだ表情で口角を優しく上げた。その笑みは、優しくて、危うくて、私の胸を激しく締め付ける。

 
私はこの温もりに溺れてしまわないよう、心の中で必死に自分を戒める。航大くんは私の手を離さず、優しく指を絡めてきた。
その大きな手が、私の小さな手を包み込む感触に胸が甘く疼く。


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