従姉の代わりに結婚したら、救急医(元カレ)の執愛に捕まりました。
家を出てエレベーターに乗り込み、地下の駐車場に向かう。駐車場の航大くんの車に近づくと、彼は助手席のドアを開けてくれた。
「どうぞ」
「あ、ありがとう。航大くん」
車の助手席に乗り込んで体を預ける。シートベルトをすれば、航大くんはエンジンをかけて出発させた。
私は窓の外を流れる景色を現実感の薄い心地で見つめる。
隣でハンドルを握る航大くんは、信号待ちになるとこちらを見て微笑む。胸の奥で強烈な不協和音が鳴り響く。私は思わず指先を膝の上で固く組み直した。
ふと、外を見ればラグジュアリー街に入っていくのがわかる。
「……あの、航大くん? こんな高級な場所じゃなくても、私は普通の商業施設とか駅ビルとか……もっとカジュアルなお店で十分なんだけど」
「ダメだよ、はるちゃん。俺は妥協はしたくないんだ」
航大くんの声は穏やかだったが、その響きには明確で拒絶を許さない硬質な意志が宿っていた。
「はるちゃんは、俺の妻……社長の息子であり楪病院の医者の妻になったんだ。これからは、妻として表に出る機会が増える。あのお嬢様の変わりとはいえ病院の理事会にも、うちの会社や医師会のパーティーに参加してもらわなきゃならないんだよ。それに、昨日の今日だ。中途半端な場所で中途半端な知り合いに見られたら、それこそ院長の耳に入る。院長に付け入る隙を与えるわけにはいかないだろう?」