従姉の代わりに結婚したら、救急医(元カレ)の執愛に捕まりました。
いたずらっぽく、首を軽く傾げる彼に私は恥ずかしさが増す。だけど、航大くんがしてほしいっていうならと……震える手でおかずを箸で摘んだ。
「う、うん。では……はい、あーん」
ぱくり、と私の箸から玉子焼きを食べた航大くんは幸せそうな顔をした。その後、柔らかく笑った。その無防備で少年のような笑顔に、私も幸せになる。 この時間が永遠に続けばいいのになんて……そんな願いが、胸の奥で小さく芽生きはじめていた。
すると、コンコンと控えめな規律正しさを感じさせるノックの音が響いた。
「榛名先生、お食事中に失礼します。薬剤部の楪凛太郎です。……急ぎで確認したい処方箋がありまして、お時間よろしいでしょうか?」
聞き慣れた、従兄の声だった。 私は反射的に立ち上がると航大くんと顔を見合わせる。
ここにいるのは、全く演じていない私だ。 けれど凛太郎くんは、私と航大くんとの歪な結婚の全貌も知る、唯一の身内だった。
なぜか急に場違いで申し訳ないものに感じられ、私は思わず自分の指をぎゅっと握りしめた。心臓の音が、耳元でうるさく鳴る。
「いや、……あ、大丈夫だ。入れ」
航大くんは一度断ろうとしていたが、仕事だと切り替えたのか落ち着いた声で返事をした。ドアがゆっくりと開くと、そこには手に書類を抱えて驚愕と複雑な感情が入り混じった瞳をした凛太郎くんが立っていた。
彼の視線が、航大くんの隣に座る私にそしてテーブルの上に広げられたお弁当箱に、はっきりと止まる。
「……悠南!? ……いや、麗だった。すみません、お邪魔でしたね」
凛太郎くんの声はやってしまったと動揺を完全に隠しきれていなかった。 その一瞬の呼びかけに、私の胸が鋭く締め付けられる。
凛太郎くんは複雑な表情を見せる。 私がここで働いていた時に救急センターの休憩室で私が作って持ってきていた弁当を昼に食べていたし、よく今日みたいに訪ねてきたことがあった。
航大くんは穏やかな表情のまま、しかし確かな声で答えた。
「見ての通り、彼女が作ってきてくれたんだ。」
「さっき噂になっていたから……そうか、本当にいたんだ」
「なんの噂かは大体想像できるが……まぁ、いい。薬剤部の君が足を運ぶなんて、よほど急ぎの用件だったのでは?」
「……はい。例の術後患者の抗生剤の処方について、最終確認に来ました。先生はお忙しいので、捕まえるのは今しかないと思いまして。ですが、プライベートなことも一つ榛名先生に……」