従姉の代わりに結婚したら、救急医(元カレ)の執愛に捕まりました。
「時間はあるし、頑張らないと……」
お米も研いで炊く準備も完了してあっという間に一時間半経ってしまった。鍋からお肉を取り出して一口大に切る。お肉を煮込んでできたスープは捨てることはせず、違う器に移してから油と分離させるために一度冷蔵庫にて冷やす。
さっきとは違う大きな鍋に油、スパイスのクミンシード、カルダモン、クローブを入れて火をつけて温めていく。カルダモンがぷっくりと膨らんだらトマトを入れてねっとりとペースト状にしてヨーグルトを足してからコリアンダー、クミンパウダーカイエンペッパー、ターメリック、ガラムマサラを入れて炒める。
一度お皿に移して、お肉を鍋に並べると少し焦げ目が付くまで焼いて先ほどの炒めたのを戻し水を入れた。冷蔵庫に入れてあるスープを取り出せばスープと油がしっかり分離していたのでそれを漉してから鍋に入れた。そこにベイリーフを入れてから弱火にして煮込み始める。
そして炊飯器のスタートを押して、野菜の素揚げをすぐにできるように準備をする。ふと外を見ると、外は紅掛かった淡い紫色に染まっていてもうすぐ十八時になっていた。
「もうそろそろ帰ってくる頃かな……お風呂も準備しておこう」
カレーの味見をしてから火を消して、お風呂のスイッチを入れてソファに座った。
彼の帰りを待つことはとても幸せだけど、他人の鮮やかな人生をこっそり借りているような心地の悪さが、常にある。
(私は今、麗としてここにいるのに……悠南として、彼に甘えていいわけじゃない。いつかは必ず、すべてを返さなきゃいけないのに……)
考え事していリビングの大きな窓を見ると、都会の夜景が宝石をぶちまけたように燦然と輝き始めていた。
外を見ていればリビングのドアが開く音がして私は扉の方を見る。するとそこには航大くんが立っていてただいま、とつぶやいた。
「ごめんなさい、気がつかなくて……」
「そんな気にしないでいいよ」
「ありがとう、おかえりなさい。航大くん。……今日もお疲れ様でした」
航大くんはジャケットを脱ぎながら入ってきて私を見るとふっと表情を緩めた。 彼は吸い寄せられるようにこちらへ歩み寄ると、その大きな体で私を丸ごと包み込むように、抱きしめた。
「ただいま、はるちゃん」
彼は私の肩に顔を埋めて深く、長い息を吐き出した。 病院で冷徹で隙のない重たい仮面を脱ぎ捨てた、無防備で熱い彼の体温。その重みが、私の胸をどうしようもなく締め付ける。 微かな柑橘系の彼の匂いに、胸が熱くなった。
「これ、今日のお礼にと思って……一般病棟に移った患者さんの様子を休憩時間に見に行ってそしたら、バザーに誘われてね。ふと目に留まったんだ。君に似合いそうだなって」