子供は作らない契約結婚でしたが夫の溺愛が本気すぎます

第1章 契約結婚のはずでした

それは突然の申し出だった。

「俺と、契約で結婚しないか」

十二年ぶりに再会した渉君は、私の部屋でそう言った。

驚いた。

まさか、かつて隣に住んでいた幼馴染みの渉君から、そんな言葉を向けられる日が来るなんて、思いもしなかった。

五歳年上の渉君は、昔から大人で知的だった。

落ち着いた声も、考え込む横顔も、子供だった私には眩しすぎて、自然と憧れになった存在だ。

高校生の頃、家庭教師をしてもらうようになってから、その気持ちは恋に変わった。

名前を呼ばれるだけで胸が高鳴り、そばにいるだけで世界が違って見えた。

だからこそ迷った。このまま結婚していいのか、と。

契約という言葉が、現実を突きつけてくる。

感情を切り離した関係。

都合のいい取り決め。

そう分かっているのに、目の前の渉君は、昔と同じ優しい目をしていた。

冗談ではなかった。勢いでもなかった。

大人になった彼が、覚悟を持って差し出してきた申し出だった。

私は答えを出せないまま、胸の奥にしまい込んでいた初恋が、静かに、確かに、目を覚ましていくのを感じていた。
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