子供は作らない契約結婚でしたが夫の溺愛が本気すぎます
渉君は静かに椅子に腰を下ろした。

「一つだけ、条件があるんだ」

その声は落ち着いていたけれど、どこか硬かった。

「条件?」

「ああ。子供は作らない」

その瞬間、胸の奥がチクっと痛んだ。

理由は分からない。ただ、言葉の重さだけが残った。

「渉君は、子供が嫌いなの?」

少し考える間のあと、彼は短く答えた。

「……そうなんだ」

彼と結婚すれば、子供を持つ未来は選べない。

そう理解しているのに、不思議と大きな迷いはなかった。

ずっと好きだった人だ。

今も、その気持ちは変わっていない。

できるなら、そんな条件なんて関係ない。

「いいよ。渉君の、いいようにしよう」

そう言って、私は手を差し出した。

その瞬間だった。渉君が、ほんの一瞬だけ、悲しそうな表情を浮かべたのを。

すぐに消えたその顔の意味を、私はまだ知らなかった。
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