娘のパパと再会したら今度こそ逃げられません
なのに今日は、顔を合わせた早々杏奈からその話題を切り出した。驚くのも当然だ。

「すみません」

杏奈は体を小さくし、頭を下げた。

「謝らなくていい。むしろそっちから話してくれて、よかった」

蓮斗は手もとの水を飲み干して、息をついた。

「だけど無理はしてほしくない」

「無理?」

杏奈はうつむいていた顔を上げた。

「緊張してるよな。そんなにかみしめると、そのうち血が出るぞ」

すると蓮斗が伸びて、杏奈の口もとを指差した。

「血……あっ」

杏奈は慌てて両手を口に当てた。

「今は大丈夫。だけど緊張すると唇をかみしめるクセ。変わってなくてホッとした」

懐かしそうに目を細めて安堵している蓮斗の声が、胸に響く。

そう。

緊張しているのは杏奈だけじゃない。

むしろ突然自分が父親だと知った蓮斗の方が何倍も緊張し、不安なはずだ。

杏奈は気を取り直すと、椅子の上で姿勢を正した。

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