まずは結婚してからだ
「あの。大丈夫です。通勤でも同じくらいの時間がかかっていて慣れてるんです。だから平気です」

 自宅から職場の羽田までは、一時間以上かかる。
 時間によっては送迎タクシーを利用しているとはいえ負担は大きく引っ越しも考えたが、大学時代から暮らしている今の家に愛着があるのと、家賃相場が高い空港近くの家を借りるほどの経済的な余裕もない。
 それに今住んでいるマンションのオーナーは父の学生時代の恩師で、彼の厚意で格安の家賃で住まわせてもらっている。
そのうえ家に不具合などないかと気遣ってくれ、管理会社を通さず定期的に声をかけてくれるという徹底した配慮。
 家族も安心していることも相まって、就職してから六年経った今も学生時代と同じ家で暮らしているのだ。

「弟さんが無理なら、俺が家まで送るよ」

「え? ……すみません。よく聞き取れなくて」

 家まで送ると聞こえたような気がするが、まさかそんなこと、あり得ない。

「車で来てるから、披露宴の後、家まで送るよ」

 匠は花梨との距離を詰め、繰り返した。

「あの、どうして……」

 匠とは高校時代の部活の先輩と後輩の関係とはいえ、気安く話せる間柄じゃない。

「ちょうど車で来てるし、ふたりとも二次会は欠席。だから家まで送って行くよ」

「だからって、あの」

「お開きの後、下のロビーで待ってる」

< 11 / 43 >

この作品をシェア

pagetop