まずは結婚してからだ
 匠は動揺している花梨に構わず、淡々と言葉を続ける。

「せ、先輩っ。送ってもらうなんて、申し訳ないです」

 こうしてふたりで話すのも初めてに近い。
 なのにわざわざ送ってもらうのは図々しすぎる。
 いくら面倒見がいいとはいえ、甘えるわけにはいかない。

「明日はフライトですよね。フランクフルトだったら十一時発。今日は早めに帰った方がいいです」

「帰るついでだから気にしなくていい」

 匠はそう言って、花梨を優しく見つめた。

「それにしても、さすがグランドスタッフ。出発時刻がすぐに出てくるんだな」

「それは、仕事ですから」

 全便の運航スケジュールを把握するのは難しいが、一分一秒を争う場面も多い職場にいれば、自然と頭に入ってくる。

「それだけじゃないだろ。沢野の仕事ぶりならたまに耳にすることもあるし。いや、それより、とにかく俺のことなら気にしなくていい。飛行機だけじゃなく、車の運転も好きだから問題ない」

「そう言われても」

 匠の面倒見のよさに、感心する。
 卒業後も時間を見つけては部活に顔を出して、後輩のために指導していたほどだ。
 今も弟に振られた花梨を放っておけないのかもしれない。

「俺以外、みんな二次会に行くらしいし、送っていく」

「……ありがとうございます。じゃあ、お言葉に甘えさせていただきます」

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