まずは結婚してからだ
 いつまでもここに引き留めて煩わせるわけにはいかない。
  今回は匠の好意に甘えることにした。
 それに高校時代の名残なのか、先輩の言葉は絶対で結局逆らえない。

「じゃあ、連絡先を聞いておいていいか?」

 匠はすかさずそう言って、スマホを手にした。

「そうですね」

 花梨は促されるまま手にしていたスマホを操作し、互いの連絡先を交換した。

「そろそろお色直しが終わる頃だな。俺たちも戻ろう」

「は、はい」

 会場に戻る匠の後をついて歩きながら、花梨はスマホの画面に表示された匠の名前を、不思議な思いで見つめた。
 ――青井先輩の車で送ってもらう?

「嘘……」

 現実のこととは思えない。
 高校時代、陸上界で注目を集める匠から指導を受けられるという幸運に、部員の誰もが歓喜し、彼に憧れていた。
 花梨もそのひとりで、匠が練習に顔を出すたび目が離せず、ドキドキしていた。匠は手の届かない憧れの人。
  今もそれは変わらないはずなのに、スマホのメッセージアプリに匠の名前が新しく加わった。
 夢じゃない。
  これは現実だ。
 思いがけない偶然と匠の気遣いによるものだとわかっていても、高校生の時以上にドキドキしている。
青井先輩、というより青井副操縦士と言った方がいいかもしれないが、どちらにしても彼と個人的な接点を持つなど想像したこともなかった。
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