まずは結婚してからだ
 花梨は笑い、運ばれてきたばかりの炭酸水のグラスを彩芽の手もとに置いた。
 学生時代、彩芽のこの明るく砕けた性格に感化されて、花梨自身も明るくラクに生きられるようになった。
今もあっけらかんとした話しぶりが懐かしくて、匠のことで混乱していた気持ちも次第に落ち着いていく。

「なあ、あれって青井先輩だよな? だったら俺、挨拶に行きたいんだけど」

「絶対そうだよね。私もさっきから気になってるんだよね」

 花梨のテーブルから驚きの声が次々と聞こえてきた。
 匠の姿を見つけて、びっくりしている。

『披露宴の後、家まで送るよ』

 途端に匠の言葉を思い出して、頬が熱くなる。
 本当に送ってもらっていいのだろうか。
 匠のテーブルでは、大学時代の友人たちだろうか、賑やかに笑い合っている。
 初めて見る、パイロット姿の匠とも、グランドで見ていたユニフォーム姿の匠とも、まるで違う肩の力が抜けて寛いだ横顔。
 ――あんな風に笑うんだ。
 花梨はまじまじと匠を見つめた。
 パイロットは多くの乗客の命を預かり、責任とプレッシャーの中で空を飛んでいる。
 そのことならグランドスタッフとして理解しているつもりでいたが、まだまだだったようだ。
 花梨が理解している以上の重圧の中、匠は操縦桿を握っているのかもしれない。
 今の匠はそんな責任感から解放されて、生き生きとしている。
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