まずは結婚してからだ
「悪い悪い。からかってない。それどころか真剣な仕事ぶりに感心してる」

 匠は相変わらず肩を揺らし、クックと笑っている。
 絶対にからかわれてる。
 花梨もつられて小さく笑った。
 匠は意外に笑い上戸なのかもしれない。
 互いの間に流れる空気が柔らかくなり、披露宴の最中に声をかけられた時よりも、距離が近づいた気がした。





「通勤、大変だよな。早番の時、迎えのタクシーに乗るのって三時頃?」
「そうですね。他にもピックアップするスタッフがいるので、羽田から遠い私が最初ってことが多いんです」

 早番の時には早朝便に合わせて五時半出社となるので、送迎用のタクシーが用意される。
 入社して六年。
 午前三時に身なりを整えてタクシーに飛び乗ることには慣れたが、やはり眠くて寝ぼけていることもある。
 とはいえ早番二日、遅番二日、休日二日というシフトをこなしながら、コンディションを整えるのも仕事のうち。
 休日は体を休めつつ仕事に向き合っている。
 ホテルを出てからそろそろ一時間近く。
 幸いにもホテル周辺はさほど混んでいなかったので、匠が運転する車は花梨の自宅に向かい幹線道路を順調に走っている。
 納車されたばかりだという新車は艶のある紺色のセダン。車に興味がない花梨でも名前を知っている国産の高級車だ。車内にはまだ新車特有の革の匂いが漂っている。
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